クリル諸島でレニウムを採掘しようという野心的プロジェクトが考案されたのはソ連時代のことだった。この地域には何トンものレニウムが眠っているものの、それを採掘するためには複雑な技術を編み出さねばならなかった。今日レニウムの価格は1キロあたり2800ドル。しかもレニウムの需要は供給をはるかに上回っている。世界にはレニウムの産地は数箇所しかなく、ロシア以外にチリと米国にある。
レニウムの応用範囲について、火山ガスからのレニウム抽出技術の作成者のひとり、アリベルト・ベッセル教授は次のように語っている。
「レニウム1トンで満足する国もあれば、0.5トンでも十分だという国もある。すべては需要しだいだ。ロシアは大国なのでレニウムは航空産業、航空宇宙産業、石油技術、エレクトロニクスと様々な分野で使われている。レニウムは特にロケットや超音速機に必要だ。たとえば第5世代の戦闘機、タービンのスコップもレニウムで作ることで超高温に耐えられる。これにより、より高温状態で燃料を燃やすことが可能となり、エンジンの出力を上げ、燃料費節約に一役買う。」
火山学地球力学研究所の所長でアカデミー学者のゲンリフ・シュテインベルグ氏にとって、火山性レニウムはライフワークとなった。シュテインベルグ氏が火山ガスからのレニウム採掘の経済性について立証したレポートが土台となって、このプロジェクトの実現化が決まったからだ。クリル諸島の1島であるイトゥルプ島は日本が帰属権を主張しているが、これについては、シュテインベルグ所長には自分なりの見解がある。
「たしかにこの箇所はイトゥルプ島にあり、島の領有権を日本は要求している。日本は主張の論拠のひとつとして、ロシアには南クリル諸島に国全体にとっての経済的意義が全くないという事項を挙げているが、ごらんのようにこんな場所がある。火山は企業の財務対象物リストに入っていたものの、長い間開発費用は拠出されなかったのが、やっとこのたび出されることになったのだ。」
生産工場はクリル諸島新発展プログラムに入れられた。これはクリル先行発展領域(TOR)のレジデントとなりうる。そうなれば追加的な恩典、特恵が得られる。プロジェクトが成果を出し始めるのは2019年から2020年代。プロジェクトが有用性を証明できれば、サハリン州は国際レアメタル市場で見事なプレーヤーとなる。