上智大・上野教授、日露首脳会談を高く評価する3つの理由とは

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5月6日、ソチで行われた日露首脳会談の成果をどのように評価するか、という問いに対し、ロシア政治に詳しい上智大学の上野俊彦教授がスプートニクに回答を寄せてくださった。以下、上野教授の見解をご紹介する。

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会談の成果を評価する前に、日露首脳会談を行うことを目的に訪露して会談が行われたこと、そのこと自体を高く評価したい。

そもそも、日露首脳会談はそう頻繁に行われるものではない。たとえば、2012年12月26日の第2次安倍内閣発足以降に行われた日露首脳会談は、電話会談を除くと、今回の首脳会談を含めて10回しかない。この10回の日露首脳会談の行われた日付、場所、訪問の目的、会談時間を表にまとめてみた。

この10回の会談のうち、日露首脳会談を行うことを目的に相手国を訪問して会談が行われたのは、2013年4月29日、2014年2月8日、そして今回の3回である。このうち、2014年2月8日の訪露は、IOC会長の招待によるソチ冬季五輪開会式への出席を兼ねており、実際には首脳会談が目的の訪露だったと考えられるが、表向きは冬季五輪開会式への出席のついでに首脳会談が行われたかたちになっている。したがって、もっぱら日露首脳会談を行うことを目的に相手国を訪問したのは、厳密に言えば、今回が2回目ということになる。ところで、いま、「相手国の訪問」と述べたが、この間、プーチン大統領の訪日は行われていないので、実際には、すべて安倍首相の訪露である。

日露首脳会談を行うことを目的として相手国を訪問し、会談を行うことがいかに重要であるかは、その会談時間を見れば一目瞭然である。表に見るように、何らかの多国間首脳会議等に出席するために第三国を訪問した際に行われた日露首脳会談は7回あるが、その会談時間を見ると、5回は40分であり、例外的に1時間30分だったことが1回、実際には会談とは言えないような立ち話にすぎなかった10分の会談が1回である。通訳を介しての会談では、10分では挨拶程度、40分でも突っ込んだ話し合いは難しい。やはり、日露首脳会談を行うことを目的として相手国を訪問し、首脳会談に専念できてこそ、突っ込んだ話し合いをするための十分な時間が確保できるのである。

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日露首脳会談分析

会談の回数を見てみると、2013年は4回、2014年は3回、2015年は2回と、年を追うごとに回数が減少している。しかも、日露首脳会談を目的とした相手国の訪問も2014年2月8日のソチ訪問を最後に、過去2年間行われなかった。これには、2014年2月以降のウクライナ政変に起因する欧米諸国とロシアとの関係の悪化が影響している。その意味でも、今回の日露首脳会談の意味は大きい。

会談の成果について言えば、全体として高く評価できる。その理由は三つある。
一つは、今回の首脳会談で、日露関係を、ウクライナ政変前の2013年の水準に戻すことが、事実上、合意されたことである。具体的に言えば、①「平和条約締結交渉を6月中に東京で実施することで一致した」(日本外務省公式発表)こと、②「日露安全保障協議及びテロ対策協議を近く実施すること、防衛当局間の交流及び海上保安庁・国境警備局間の交流を継続することで一致した」ことである。平和条約締結交渉は、継続を前提としていると推測されるので、これは、平和条約締結交渉事務レベル協議の復活と考えてよい。後者は、外務省の公式発表には明示されていないが、2013年10月から11月にかけて第1回がおこなわれ、その後中断している日露外務・防衛閣僚会議「2プラス2」の復活を意味していると考えられる。少なくともロシアの外交筋ではそう述べている。

二つ目の理由は、「これまでの(平和条約締結)交渉の停滞を打破し、突破口を開くため、双方に受入れ可能な解決策の作成に向け、今までの発想にとらわれない『新しいアプローチ』で、交渉を精力的に進めていくとの認識を両首脳で共有した」ことである。その際、外務省の公式発表では、「日露二国間の視点だけでなく、グローバルな視点も考慮に入れた上で、未来志向の考えに立って交渉を行うこと」が言及されている。この認識がロシア側に共有されたのかどうかは定かではないが、少なくとも、日本側がそうした認識を持っていることは重要である。日本政府が、いわゆる「北方領土問題」を解決するためにも、平和条約締結交渉に際して、「グローバルな視点」と「未来志向の考え」に基づいた「新しいアプローチ」を提案することを、私は大いに期待したい。

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三つ目の理由は、「安倍総理から、日露双方が静かな交渉環境を維持するために互いの国民感情に配慮し、相手の国民感情を傷つけるような行動や発言を控えるべきであることを指摘した」ことである。たとえば、日本には、「ロシアによる北方領土の不法占拠」という言い方がある。こうした主張にもそれなりの根拠はあるが、ここではその根拠の是非は問わない。問題は、交渉しようとするとき、その交渉相手を「不法」と言ってよいか、ということである。考えてみれば、答えは明らかである。不法な相手とは交渉の余地はない。「不法占拠」はやめさせるしかない。逆に言えば、相手を「不法」と言ってしまえば、交渉はできない、ということである。他方で、ロシアは、第二次世界大戦で、日本の同盟国であるドイツと戦い、第二次世界大戦参加国の中で最大の犠牲者を出している。それは、独ソ戦のほとんどがソ連の人口が最も多いソ連欧州部において地上戦として戦われたからである。このことからも、ロシア国民は第二次世界大戦について特別な感情を持っており、その大戦をドイツや日本が開始したこと、その大戦の戦後処理の一環として千島のソ連への引き渡しが連合国の米英ソ三国首脳によって合意されたことは、ロシア国民にとっては極めて重要な歴史的事実である。この第二次世界大戦の開戦の責任を持つ日本が、あたかも大戦の犠牲者であるかのような立場で大戦の最大の被害国であるロシアに領土返還を迫ることをロシア国民はどのように考えるのか、ということも考えてみることが必要であろう。もちろん、シベリア抑留、日ソ中立条約の一方的な破棄など、また米軍の投下した原爆によって唯一の被爆国となったことなど、第二次世界大戦中の出来事について、日本側から言いたいことはほかにもたくさんある。しかし、これから交渉しようという相手に、過去の出来事をあれこれ言っても生産的とは言えない。まさに、「未来志向」の立場に立って、「相手の国民感情を傷つけるような行動や発言を控えるべきである」。

(上智大学教授・上野俊彦)

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