日本でナルィシキン氏は両国の外交関係復活60周年を記念した第11回ロシア文化フェスティバルの開幕を宣言した。1956年10月19日、ソ連と日本は戦争状態を停止し、外交関係を復活させることを見込んだ宣言に調印している。この時、クレムリンで盛大な雰囲気のなかで共同宣言の調印が行われ、ソ連はその中で平和条約が締結された後、善意の表れとして日本にシコタン、ハボマイの2島を渡す用意を示した。ところが1960年代の初め、日本は米国との間に安全保障条約を結び、これにより自国領土の一部を米軍基地用に提供すると、ソ連政府は条約の中にソ連にとっての潜在的な危険性を認めると、島譲渡問題の検討は退けるとの声明を表した。2004年11月、ラヴロフ外相は声明を表し、ロシアはソ連を継承する国として1956年の共同宣言をあるままに認め、これを土台として日本との間に領土交渉を行う構えであることを明らかにした。
ロシア科学アカデミー、極東研究所、日本調査センターのヴァレリー・キスタノフ所長は交渉がすぐさま結実するということは懐疑的だとして、次のように語っている。
「それぞれの立場にはまだかなりの隔たりがある。私には想像しがたいのだが、日本は1956年の共同宣言の状態に戻ることに賛成し、返還要求を2島に限定した。さらに想像しがたいのは、ロシアは日本の希望に前向きにそって、4島全島を渡すだろうかということだ。それでも対話は再開され、希望を与えており、この先の深化した話し合いのための将来性を開いている。『そいう問題も観点もない』と言ったソ連のグロムイコ外相時代のときのように全く話し合わないほうがよくなかっただろう。それにそれは二国間に凍りついた雰囲気を作っただろう。」
つづいて袴田茂樹氏も次のような見解を表している。
「今回安倍首相が5月にソチで新しいアプローチを提案したが、私自身専門家としては、南クリルの問題で現在日本にある程度譲歩してでもロシアは妥協できるかというと、プーチン大統領はそういう状況には無いと見ている。その理由だが、2011年から2012年に掛けて、ロシアでは反プーチンのデモが何万人規模で行われ、支持率がかなり落ちた。しかしその後、2014年3月の『クリミアの併合』と2015年9月の末にはシリア空爆によってプーチン大統領の支持率は89.9%にまで上がった。これは、プーチン大統領は失った領土を取り返した偉大な大統領であり、シリア空爆の場合は世界にロシアの力を示した大統領として、ロシア国民の、あるいはプーチン大統領の支持基盤であるシロビキたちの愛国心を大いに満足させたので支持率は高まったわけのだ。失った領土を取り戻した偉大な大統領として支持率が上がっているのであれば、プーチン大統領は南クリルで譲歩するのは大変難しいだろう。」