日本企業の抱く危惧感は何に立脚したものなのか? これについてロシアの「エクスペルト」誌の金融アナリスト、アンナ・コロリョーヴァ氏は、「日本の海外投資のおよそ50%が欧州で、そのかなりの部分が英国で行われている。それは日本企業は英国への投資でEU市場への道が難なく開かれると考えていたからだ」と語る。ところが英国のEU離脱で状況は変わるかもしれない。だから日本は何とかして保険をかけておきたいと望んでいるわけだ。
メイ首相と安倍首相の首脳会談は終了した。会談では予想どおりまさにこのEU離脱が話し合われ、このほか貿易、安全保障問題が取り上げられた。訪問でメイ首相は離脱を前に日本の主たる国際的な投資家らとの関係強化を狙うと予想されていた。
会談はポジティブな結果に終わったものの、日本の実業界はやはり賢明に慎重な立場をとっている。英国EU離脱の結果が、そしてその影響がどうなるかが十分に明らかにされないなかでは、日本は更に一層慎重に事を運ばざるを得なくなっている。だがコロリョヴァ氏はこの慎重さがゆえに日本企業は英国を離れることができないでいると指摘し、さらに次のように語っている。
「英国は日本からの投資額とまさにこの国の市場での事業を望んで進出してくる日本企業の数では欧州最大の国に数えられる。この国における主たる投資家は日本の自動車メーカー、電気機器メーカーだ。この他、英国には進出している日本企業をサポートする銀行、保険、ロジスティックスなどサービス分野の企業も少なくない。しかもロンドンは今もなお世界の金融の中心地だ。商品取引所も含め、一連の世界的な取引所が存在している。このため日本の実業界は英国からの撤退に大きな意味があるとは思っていない。」
デイリーメール紙の調べでは、7月、ロンドンの金融街「シティー」の行政を担う「シティー・オブ・ロンドン自治体」で欧州特使を務めるジェレミー・ブラウン氏は仏の財務省と中央銀行で一連の交渉を行っている。そのブラウン氏が率直にその実感をもらしたところでは、「EU諸国はEU離脱がより強硬な形で行われるよう望んでいる。銀行サービス市場の細分化を達成しようというわけだ。そしてその主たる目的が英国の弱体化およびロンドンシティーの凋落であることを隠そうともしていない。」
これも日本の実業界を脅かしているに違いない。日本のビジネスマンらがこうしたシナリオを遠い先の話としてとらえているのだろうか? ロシア高等経済学院のアンドレイ・フェシュン准教授はこれについて次のような見解を表している。
「英国は欧州の金融の中心地となって久しく、EU離脱後もこうした活動をたたむ気もない。おそらく日本はこの問題では英国を支援していく覚悟だとおもう。なぜなら金融の中心地をロンドンから移すには莫大な時間がかかるからだ。もちろん金融の中心地をロンドンから移すことは理論上はすべて可能だ。だがそのためにはなんらかのグローバル規模の震撼が必要だ。それが起きればロンドンの金融取引所に参加している全員は一人残らず損害を被り、投資にネガティブな予測可能な効果が出るはずだろう。このためロンドン取引所は今のところは利益を上げており、そこに参加する者たちにも外からのはっきりした圧力はかけられておらず、誰もここから去ろうとはしていないのだ。」
「何らかの傾向が変化するからといって日本企業がサクセス市場から撤退するというのは、常にその国の市場情勢から投資の判断を下す役員会のソリューションとしてはあまりにも複雑すぎる。英国経済はいま、比較的いい状態にある。EU離脱の前に英国は自国の経済状態を立て直し、予算不足を削減するのに多大な尽力をはらっていた。とられた措置は必ずしも最もポピュラーなものではなかったが、それでもそれなりの成果はもたらし、英国経済は堂々たる安定を取り度した。一方でEU経済はといえば、同じように安定しているとはとても言えない。」
そして日本のビジネスがEU離脱ゾーンからEUのクライシスゾーンへ移行するというのは、離脱が原因でいくら英国の財政出費がかさんだとしても、あまりにも筋が通らない。
この事実がメイ首相の訪日で行われる交渉でのポジティブなライトモチーフとなっていることは疑いようもない。