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市川氏は、ルール作りがビジネス発展につながった身近な例として、Airbnb(エアビーアンドビー)を挙げた。サービス開始当初、民家に泊まりたい人はたくさんいたが、部屋を貸す人が少なかった。そこで部屋数を増やすため、家主が安心して部屋を貸せるようなルール作りが行なわれた。借り手にルールを守らせるとともに、万が一部屋がダメージを負えば、Airbnbが責任をもって元に戻すというルールを作ったことで、貸し手が増えた。
日本は、モノや場所を共有する仕組み「シェアリングエコノミー」の国際標準化を目指し、ISOに委員会設置を提案している。Airbnbや配車サービスUber(ウーバー)などは、シェアリングエコノミーの典型的な例だ。モスクワでも近年、自動車や自転車、キックボードをシェアするサービスが始まり、モノを共有することに抵抗がなくなってきた。しかし、利便性、信頼性を更に高めるためには、一定のルールが必要だ。
市川氏「サービス提供者と利用者、皆がウィンウィンの関係になるために、どんなルールが必要なのか、基本的なテンプレートを作ろうとしています。日本としてはこの分野で世界をリードしたい。これは素晴らしいアイデアだと思います」
市川氏は、資源に依存するロシアが財源の捻出方法を変えるためにも、ルール形成という視点は有効だと話す。
市川氏「ロシアは進んだ科学技術を産業に結び付けていく努力が必要です。スタートアップ支援も熱心に行なわれていますが、支援にあたっては、スタートアップがスケールアップできるような仕組み作りを重点化し、そのためのルールを形成する、という視点を持つと良いでしょう。異なったタイプのプレーヤーが連携を強化し、業務提携、共同での新会社創設などを容易に行なえるよう政府がサポートすれば、とても大きな意味を持ってきます。イノベーションとは新技術の開発ではなく、『新しい組み合わせ』であり、人間同士の化学反応です。組み合わせは放置しておくとなかなか起こりませんが、そこに触媒(=ルール)を入れてあげると、色々な人やビジネスが組み合わさるようになり、良いサービスがどんどん生まれます」
また市川氏は、日本政府が提唱する超スマート社会「ソサエティ5.0」についても、基本理念や定義作りから始め、日本から世界に発信していくべきだと話す。ソサエティ5.0の特徴は、データを取得・蓄積・使用するという技術を非常に高度化し活用することにある。日本は、今まで特定の場所にしか蓄積されてこなかったデータを流通させ、多分野で活用する仕組みを作ろうとしている。
市川氏はソサエティ5.0のコンセプトを、中欧の小国スロヴェニアで紹介している。スロヴェニアはソサエティ5.0の導入やスタートアップ育成に非常に熱心な国だ。
市川氏「スロヴェニアのスケールアップのためには、大きな市場を作る努力が必要です。今も国の経済は輸出でまかなっていますが、これから大事なのはモノではなくて、コンセプト、社会の仕組み、ライフスタイルといったものを外に出していくことです。ソサエティ5.0はひとつのライフスタイルであり、それをスタンダードとしてヨーロッパ中に横に展開していけば、スロヴェニアという国がシンガポール並みに大発展していくきっかけになるのではないかと考えています」
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