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快適な地下鉄、そうでもない地下鉄
世界で最も快適な地下鉄の一つと考えられているのが、東京メトロだ。日本人にはお馴染みのエレベーターやトイレ、地下鉄内の申し分ない清潔さに、ここを訪れる外国人は非常に驚く。感動を呼ぶのはこれだけではない。冬にはヒーターが作動し、夏の猛暑にはエアコンの涼気に包まれるベロア張りの座席や、窓に下ろすことができる日よけ、駅名を知らせてくれる液晶パネルなど、他の数多くの長所についても同様だ。
ニューヨーク市地下鉄の場合、東京メトロのような快適さを自慢することはできない。ニューヨーク市地下鉄には、ネズミの集団がいくつも住みついているからだ。市当局は数十年間、この問題を解決しようと試みているものの、現在でも数多くのネズミが生息している。駅やプラットホームそのものもまた、その多くにゴミ箱が設置されているにもかかわらず、清潔な状態からはほど遠い。だが、そのことが毎日地下鉄を利用する人々を落胆させることはない。というのも、地下鉄を使えば市内のどの場所へでも、わずか3ドルでたどり着けるからだ。
一方、ワシントン・メトロでは逆に、駅は清潔でこざっぱりとしている。確かに、駅には装飾や飾りつけはないが、その代わり各駅には2、3台ずつエレベーターがあり、さらにプラットホームへ降りていく際にエレベーターを使うか、エスカレーターを使うかを選ぶこともできる。
マニキュア、靴下、それに本
メキシコシティ地下鉄では、全ての列車の先頭2車両が常に、女性と子どものために割り当てられているうえ、これらの車両に男性の乗客が乗り込まないよう、警察が極めて厳しく監視している。メキシコ人の女性たちはこれらの車両を、仕事前のメイクのために利用していて、化粧をしたり、マニキュアを塗ったりしている。
ただ、メキシコの地下鉄について、安全な交通手段と呼ぶことは恐らくできないだろう。夕方になると、一部の路線と駅では、外国人については言うまでもなく、メキシコ人でさえ、不快な出来事に遭う危険がある。観光客にとっては、地下鉄網における自分の位置を把握することも大変になる。地下鉄の中では、各路線が単に終着駅のみで表示されているため、目的地に行き着くために必要な路線の終点となっている駅を把握しておくことが常に重要なのだ。
メキシコの地下鉄はさらに商売を営む場所でもある。駅にある極めて上品な軽食堂の料理から、行商人が売りあるくチューインガムやキャラメル、音楽ディスクなどに至るまで、あらゆる商品が売られている。行商人たちは複数の車両を移動しているため、地下鉄に乗れば、ありとあらゆる物をぶら下げた人物が自分の車両に入ってこない区間はほぼ一つもない。
小間物の行商人が栄えているのはアルゼンチンの首都ブエノスアイレスの地下鉄も同じだ。座席に座っていれば膝の上にチューインガムやら靴下、髪ゴムやら必ず誰かが置いていく。ブエノスアイレスの地下鉄には物乞いの姿も非常に多い。ただし地下鉄の読書人口がほぼ「絶滅危惧種」に属す北京とは異なり、アルゼンチンの地下鉄では本を手にした人を必ず見かける。ブエノスアイレスで大がかりな国際見本市が行われるときは全くの無償で本が配られる駅がいくつかあった。
ところかわってローマの地下鉄はモニュメント的な装飾や大理石のコンコース、長いエスカレーターといったものが一切排除されている。地下鉄の駅とは純然とユーティリティ・ファンクションを遂行する空間であるか、それとも悲しいかな、それが遂行されていない空間であるか、そのどちらかだ。びっしりと落書きに覆われ、しかも壊れている車両からは繁栄の時代をひた走っているとはとても思えない。
ローマに住むヴァレリオさんは地元の地下鉄をこう語る。「家からオフィスまでは4駅なんだけど、とにかく途中で降りて、バスに乗り換えて職場にたどり着かないといけないことばかりだ。鎖で封鎖された地下鉄の入り口に地図を持ったまま呆然と立っているツーリストを見るたびに自分の街が恥ずかしくてたまらなくなるよ。」
この柵のおりた入口というのは、実は昨年10月、ある駅でエスカレーターが故障した事故に関係している。ローマの都心のある駅で、突如エスカレーターが高速化し、危うく死者を出す大惨事になるところだった。それ以来、半年以上が経過したというのに、都心の3駅は未だに閉鎖され、列車は止まらずに通過している。3駅の区間はローマ市の用意したシャトルバスに乗り換えねばならず、ローマ市民もツーリストも大きな不満を抱いている。
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