ロシアのエネルギー外交:新しい側面

© Sputnik / Axel Schmidt「ノルドストリーム2」
「ノルドストリーム2」 - Sputnik 日本
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大きな出来事となったのが、10月30日にデンマーク政府からロシアの海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」を同国の排他的経済水域に建設する許可が出たことである。これがガスパイプライン建設の最後の法的障壁だったため、パイプラインは来年初めにも供用開始になる可能性がある。

「ノルドストリーム2」は2012年に供用開始されたガスパイプライン「ノルドストリーム1」と合わせて年間1100億㎥のロシア産天然ガスを西ヨーロッパの消費者向けに輸出する。この量はガスプロムの計算によると、原子力発電所28基が発電するエネルギーに相当するという。

このプロジェクトが誕生したのは、西ヨーロッパ、特にドイツで原子力発電所を廃止して環境に優しいエネルギーに移行する計画が実施され、天然ガスの需要が高まったからである。

一方で、バルト海の海底を通る困難で高価なルートが選ばれたことは、ロシアが主要トランジット国であるウクライナの政治リスクを回避しようとしていることを示している。ウクライナ政権はアメリカの大きな影響下にあり、そのアメリカはロシアとEUの経済関係を支配したいと望み、近年はヨーロッパ市場に価格競争力のない自国産シェールガスをオファーすることで、ロシアと競合しようと試みている。

もっぱらこうした状況が後押しして、ドイツはEUで「ノルドストリーム2」プロジェクトをロビーするに至った。なぜなら、安価なロシア産ガスはドイツ製品の国際競争力を高めてくれるからだ。

「ノルド・ストリーム2」 - Sputnik 日本
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ちなみに、ロシアはウクライナ経由のトランジットを完全に廃止するつもりはない。まず、このルートは東欧諸国への輸出に便利である。他方で、ロシアは年間30億米ドルのトランジット料を支払っているため、トランジットはウクライナ政権やそれを支持するEUとの政治対話にとって重要なのである。

ロシアのエネルギー外交でのもうひとつの大きなイベントは、10月18日に「トルコストリーム」の海底区間の第1ラインにガスが通ったことである。ロシア・エネルギー省のアレクサンドル・ノヴァク大臣は「トルコストリーム」を経由したロシア産ガスの供給は、ブルガリアへは2020年1月1日に、セルビアには2020年中に開始されるはずだと語った。ちなみに、これはヨーロッパにロシア産天然ガスを供給するもうひとつのプロジェクトであり、ヨーロッパ南部と南東部にガスを供給する。ガスの総輸送能力は年間315億立米だ。これによりトランジット国とガス輸送ハブの役割を担うことになるトルコとのパートナーシップは、トルコ政府とロシア政府の関係が戦略的性格を持っていることを示している。

最後の大きなニュースは、10月29日にガスプロムが、ガスパイプライン「シベリアの力」のパイプライン部分が中国へのロシア産ガス供給開始に向けて準備を完了したと発表したことである。「ヤクーチアのチャヤンダ・ガス田のガスがブラゴヴェシチェンスク近郊の国境計量ステーションまで到達した」とガスプロムが伝えた。輸出能力は年間380億立米。この新しいパイプラインを使った供給は今年12月に開始される予定だ。

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ロシアのプーチン大統領は9月のモンゴル訪問の1週間後に、ガスプロムのアレクセイ・ミレル社長に対し、もうひとつのトランジット・ガスパイプラインをモンゴル経由で中国まで敷設することを検討するよう指示した。

東方へ向かうパイプラインはロシアと中国のパートナー関係を反映しており、両国の間に極めてセンシティブな分野で相互依存関係を形成する。しかし、もっと重要なことは、これから完成するガスパイプラインにより、ロシア国内に統一ガス供給システムが完成するということだ。このシステムは西シベリアやヤマルのガスをヨーロッパに輸送するだけでなく、中国や極東全体に輸送することを可能にする。

別の言い方をすれば、ロシアのガス輸出者は、極東かヨーロッパかどちらか一方の戦略的市場にとらわれる必要がなくなり、需要はもちろん、政治情勢やその他の条件に応じて、柔軟にガスの振り向け先を調整することができるようになるのである。ガスプロムはずっと以前からパイプライン輸出戦略においてヨーロッパが唯一の市場にならないよう努力してきた。極東市場も唯一の市場にはならない。

しかし、ペルシャ湾や南シナ海の情勢が悪化した場合には、北極海航路を通じてすでに日本を含む地域に供給が始まっているヤマルのロシア産LNGとあわせて、パイプラインガスがもっとも安価で安定した資源になる可能性もある。

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