ロシアの宝石の町といえば、コストロマ。金銀を用いたロシアのジュエリーのうち、3分の1以上がコストロマで生産されている。新進気鋭のブランド「KU&KU」もそのひとつで、コストロマに自社工房を構え、ジュエリーデザインの下絵を作るところから宝石の加工、最終的な製品化に至るまで、全てを自社で行っている。ロシアで200年以上続く宝石加工の専門学校を出た熟練の職人たちと、クリエイティブな発想にあふれた工科大学出身の若者が一緒になって仕事をしている。
昨年、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大級の宝飾品見本市「JCKラスベガス2019」では、KU&KUのピアスが3位入賞した。世界のトレンドを研究し、どんなプロジェクトでもすぐ実行に移せるのがKU&KUの強みだ。エレガントなジュエリーから男性向けのスタイリッシュなもの、動物や楽器をモチーフにしたコレクションなど、同じメーカーとは思えないほど、方向性は幅広い。
昨年からは日本で行われている国際宝飾展に参加し、日本のジュエリー業界の調査を始めた。KU&KUのヴェスタ・クドリャフツェワ社長は、「KU&KUを知ってもらい、日本人の信頼を得られるように全力で頑張る」と話している。
クドリャフツェワ社長「昨年の秋に横浜、今年1月には東京の展示会に参加し、日本のバイヤーさんから興味を持ってもらいました。日本の皆さんには、すでに一定のジュエリーの好みの傾向があるとわかりましたが、同時に、若い世代の方々は世界のトレンドに敏感で、挑戦に前向きだとも感じました。日本市場に出ていくには、私たちが信頼のおける安定した企業であること、そして長期的なパートナーシップが築ける企業である、と日本側に感じてもらわなければいけません。そして、常に変化を続け、新しい商品を生み出していける存在であることを求められています。日本に進出するには、計画に基づき、詳細まで気を配り、時間をかけて取り組む必要があります。私たちは現在、日本の皆さんの趣向について、研究を続けています。」
今年に入って初めて日本に紹介されたのが「POKROVSKY JEWELRY」(ポクロフスキー・ジュエリー)だ。オリガ・ピャタショワ社長によると、今年1月の東京の展示会で初めて日本に商品を紹介したところ、バイヤーや来場者からとても興味を持ってもらえた。特に人気があったのは動物をモチーフにしたブローチと、POKROVSKY JEWELRYのデザイナーによるオリジナルジュエリーだ。自社工房は、ウラジーミル州のポクロフという町にあり、ブランドの名前はそこから取った。
POKROVSKY JEWELRYを創業したのは、元ロシア航空宇宙軍パイロットのミハイル・ピャタショフさんだ。かなり珍しい経歴だが、彼のジュエリーに対する情熱は本物で、退役後の2000年に数人でゼロから始めた小さな工房は、現在では250人以上が働く工場となった。3Dプリンターを駆使した最新技術と職人の技を合わせ、これまでになかった形状やデザインのジュエリーを生み出している。
ピャタショフさんのもとには、今でも航空宇宙軍や宇宙開発事業の関係者、宇宙飛行士たちが、特別な日のためのジュエリーをオーダーしにやってくる。なんと日本の宇宙飛行士・野口聡一さんも工房見学に訪れた。野口さんは小さな宝石を土台に接着する作業を体験し、「これなら、宇宙に行く方が簡単だね…」と感想をもらしていたという。
ピャタショワ社長は「東京で見た他社のジュエリーは、私たちのものとは違うなと思いました。POKROVSKY JEWELRYは若い仲間が中心で、常に新しいインスピレーションを探し求めています。私たちは、形もデザインも、実験してみることを恐れません。日本の皆さんに、ロシアから愛を込めたジュエリーを届けたいです」と話している。