100ページにおよぶこの統合レビューでは、世界における競争が進歩し、国際秩序に対する脅威が高まり、潜在的な破壊技術が拡散されていることから、戦略的安定の危機が生まれていると指摘されている。こうした状況を鑑み、英国は4隻の原子力潜水艦を保持し、そのうちの1隻を常時警戒監視に当たらせるほか、保有する核弾頭の数を180発から260発に引き上げるとしている。
英政府はこれを目的に、核戦力の近代化を図るため、240億ポンド(およそ3兆5,800億円)を拠出する。一方、このレビューでは、これまで同様、ミサイルは特定の国に向けられたものではないと述べられている。
国際的な反核団体は、核戦力増強に向けた英国の戦略を非難している。独国営の国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」が伝えるところによれば、核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長は、これについて国際法を違反したものであり、新たな軍拡競争の危険を孕むものだと述べている。
また英国の軍拡キャンペーンも同様の立場を示している。一方、ロシア政治・経済関係曲の主任アナリスト、ミハイル・ネイジマコフ氏は、「スプートニク」からのインタビューに対し、核戦力増強の計画は、軍事費の拡大を求める保守党政府の路線を継続するものだと指摘する。
英国は防衛費を拡大に加え、中国に対抗するため、アジア諸国との連携を活発化させることを計画している。統合レビューでは、中国は「系統的競争相手」であると記され、英国は韓国、インド、日本など、アジアのパートナー諸国と緊密な協力を図っていく必要があると指摘されている。しかし同時に英国は、中国の貿易や投資に対しては、それが国益に適うものであれば、今後も開かれた状態であるべきだとの立場を示している。英国は、2021年に主要7カ国(G7)の議長国であり、ジョンソン首相は7月の首脳会議に韓国、インド、オーストラリアを招待するとしているほか、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への英国の参加についての協議を開始する予定である。
なお、2021年1月1日、日本と英国それぞれの議会が承認した日英包括的経済連携協定が発効した。この協定には、英国の輸出品のおよそ94%、日本の輸出品のおよそ99%の関税が段階的に撤廃されることが盛り込まれている。この協定は、英国のEU(欧州連合)離脱後初の大規模な貿易協定となった。