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この実験の意義や、既存の仮想通貨と銀行が発行する仮想通貨の根本的な違いについて、露ビジネス誌エクスペルトのファイナンシャルアナリスト、アンナ・コロレワ氏に話を伺った。
「銀行が発行する初の仮想通貨の登場は、銀行業界でバーチャルと現実が接近した重要な前例として見られるようになる。仮想通貨は管理できないので通常の通貨の動きの枠内に『押し込む』ことは不可能だとの言説は今日多く聞かれる。MUFGはこうした実験をはじめることで、実質的にこの分野のパイオニアとなる。ここで重要なのは、銀行が発行する仮想通貨の支払手段を通常のカードと似たものにしないことだ。だが、今のところMUFGの発表はまさにこうした方向性を思わせる。1MUFGコイン=1円となる。MUFGコインの取引は通常のキャッシュカードを使うくらい簡単になる。だがさらなる利点は、資産のセキュリティが高いことにある。非中央集権的な他の仮想通貨と違い、MUFGは通貨を規制する役回りになる。つまり、交換の仲介役になる。」
MUFGコインはボラティリティ(価格変動の度合い)が小さくなる。これは、他の仮想通貨との最も本質的な違いの1つになるだろう。コロレワ氏によると、この措置は仮想通貨の未来のために不可欠。
「仮想通貨の持ち主は今、仮想通貨のボラティリティをメリットの1つだと考えている。激しい値動きで大きく稼ぐことができるからだ。だが、全世界の規制当局や政府はまさにこの理由から、先入観を持って仮想通貨に接している。今の仮想通貨が、実際の資産に支えられていないため、いつでも破裂するかもしれないバブルやポンジ・スキームを想起させるものだからだ。」
MUFGコインの運命は、銀行が投資家に提示する時価総額に左右されるとコロレワ氏は見る。投資家にとって、いかに、そしてどれほど稼げるかを知ることは重要だからだ。MUFGコインの実験に参加したい人は、参加希望を提出し、専用のアプリをスマートフォンにインストールする必要がある。アプリは円をMUFGコイン単位に換算する。1MUFGコイン=1円だという事実はコインの持ち主に、資産がただのバーチャルリアリティでも空気でもなく、準備通貨である円をしっかりと基盤に持つという確信を与える。
MUFGコインはレストランや店、もしくは三菱UFJ銀行の支店で支払手段として用いることができる。同銀行の発表によると、コインはまた、他のアカウント保有者の口座に振り込むことができる。
最初の段階では、MUFGコインが使えるのは日本国内だけだとコロレワ氏は指摘する。
「MUFGコインを他国で使うには日本政府の許可が必要だが、近い将来に可能になるとは思えない。だが、もしMUFGの技術が全実験段階で成功すれば、世界の他行もまもなくMUFGの例に倣い、独自開発の仮想通貨を発行する可能性がある。とはいえ、現時点で全ての仮想通貨の将来はまだあまりにも不確かだ。仮想通貨の命運は規制に直接左右される。世界の政府はこの分野の規制手段と仮想通貨の所有者の資産を守る手段を考案する必要がある。こうした条件でのみ仮想通貨は広く普及するだろう。さもなければ、仮想通貨はいつかバブルのように『爆発』して、禁止されるだろう。だが現時点で仮想通貨の『失敗』を語ることは時期尚早だ。」
この結論の証拠は、毎日のように高まる仮想通貨の人気である。仮想通貨は徐々に純粋な取引資産であることを止め、本格的な支払手段として認識されはじめている。MUFGの実験はこれを証明しようとしている。