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このプロジェクトは、モスクワ在住の日本人男性、廣瀬功さんと鈴木基由さんの「ちゃんとした美容院に行きたい」という切実な思いと、横山さんの「ロシアで恩返しがしたい」という気持ちが一つになって実現した。横山さんは今年6月に行なわれたサッカーW杯ロシア大会で日本戦を観戦。
レインボーヘアの日本人サポーターとして、ロシアのメディアを賑わせた。その時にロシアで受けたもてなしや温かい交流を忘れることができず、ロシアで何かできれば、という思いが強まり、ロシアで初の日系美容院をオープンしたいという目標につながった。
「横山さんの美容院イベント」では、横山さんが経営する美容院の紹介とともに、美容院が入学式や卒業式、成人式といった人生の節目節目に欠かせない存在であることや、カットやカラーでどんな個性が出せるのか、プレゼンが行なわれた。その後は、ロシア女性に日本の技術を体感してもらうため、横山さん自らカットを行なった。
控えめなシニヨン姿でやって来た大学講師のアンナさんは、カットした後にアップスタイルを提案してもらった。「10歳は若返りました。モスクワの美容院では、こうしてみたら?などアドバイスをもらえることがあまりないですが、横山さんは『首のラインが綺麗だから強調したほうがいい』と、合う髪形を提案してくれました。とても気に入っています」
出版社秘書のイリーナさんは、伸ばしかけだった髪を横山さんのすすめでナチュラルな短めボブにした。「友だちに教えてもらった日本のロックがきっかけで、ポップスを聴いたり、日本のドラマや映画を見るようになりました。日本の映像の優しくて明るい雰囲気が大好きです」と、日本語を交えて日本への愛を語ってくれた。
横山さんは「ロシア女性の、美を追求する姿勢はとても積極的です。美しい方により美しくなってもらい、笑顔を見るのは何よりの喜びです」と話す。横山さんはカットにあたって「何センチ切るか」を考えるのではなく、不要な部分をなくしていくことで、本当に必要なものだけを残し、美しさを引き出すのだと話す。
ロシアに滞在する日本人も、日系美容院のオープンを切望している。残念ながらロシアの技術レベルは、首都モスクワでもおよそ日本の25年前に相当するという。日本では当たり前になっている、カットによってボリュームを調整したり、ふわっと見せる、ダメージを抑える、といったことは期待できない。ロシアのカットは、言ってみれば、ただ髪を短くするというだけのものだ。
筆者自身も美容室難民だったが、モスクワのあるサロンの出来栄えにショックを受けて3日ほど家に閉じこもり、それ以来、美容院には近づかないで来た。日本人女性は多かれ少なかれ似たような状態だ。一時帰国を待つ、ヨーロッパ旅行の際に日系美容室へ行くなどの手段でなんとか凌いでいる。
主催者のひとり、鈴木さんは、「ロシア人が日本人に会う機会があまりない中、もし初めて会った日本人の女性が綺麗なら、ロシア人に日本女性の美を印象づけることができます。日系美容院ができることで、ロシアにいる日本女性にもっと美しくなってもらえたら嬉しい」と話す。
予想以上の反響を集め笑顔があふれたイベントを終え、横山さんは、来年にも美容院を開店できるよう、準備を進めていく計画だ。