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ある広告業界の関係者は「ロシアではコンテンツの著作権が無視され続けている。日本企業が本腰を入れて活動しにくいのは、コンテンツが消費されても、商品が売れないからだ」と漏らす。実際のところ、日本のコンテンツに限らず、音楽や映画、海外ドラマの違法ダウンロードは日常的に行なわれており、コンテンツに対する権利意識が低い。日本では購入しないといけないような人気アーティストの最新曲も、ロシアでは聴き放題だ。アニメに至っては、英語版を手に入れ、勝手にロシア語に翻訳している集団もある。日本のアニメファンが増えること自体は良いが、グレーなコンテンツがのさばっていることは頭の痛い課題である。
イスタリ・コミックス・パブリッシングは、コミックや小説の出版からスタートした会社で、10年以上にわたり日本の文化をロシアに紹介してきた。ロシアで日本のコミック・ラノベ分野における業界トップの地位を確立しているが、近年はアニメや映画にも手を広げ、2017年9月には大ヒットアニメ映画「君の名は。」(新海誠監督)をロシア国内の350の映画館で上映した。
同社のエフゲーニー・コルチュギン社長は、日本企業とのマッチングイベントについて「とても効率的。オーガナイズも情報提供もハイレベルだった」と大満足だ。
コルチュギン氏「我が社の目的は、合法的に日本のアニメをロシアにもってきて、ロシアのアニメ産業を活性化させることです。日本の会社と知り合うプロセスというのは、一通のメールから始まって『日本風に』進むため、通常なら相当長い時間と手間がかかります。しかし今回は2日間で25社以上と商談でき非常に生産的で、時間を節約でき、ビジネスそのものに集中できました。既に、あるアニメの権利をどのように得られるか、という具体的な話に入っています。私が一人で日本に来ても、こうはいかなかったでしょう。また、一度も海外マーケットでお披露目されていない、現在制作中の最新アニメについて情報を得られたのも収穫でした。」
「MVK」は、2015年にできたばかりの若い会社だが、ロシアとCIS地域で最大規模のアニメ映画配給会社であり、特に子ども向け作品には定評がある。昨年3月にMVKによってリリースされた「メアリと魔女の花」は、ロシアにおけるアニメの新しい興行記録を打ち立てた。「文豪ストレイドッグズ」「夏目友人帳~うつせみに結ぶ~」などの劇場公開も手がけている。
スミルノフ氏「映画マーケットには、世界中の配給会社が参加するようなビッグイベントがありますが、そういう場所で出会えるのは最も規模の大きい会社だけです。しかも3~4日間で世界中の映画を見ることになるので、把握が間に合いません。今回のジェトロのマッチングでは、30分ずつではありますが、中小企業の担当者と会うことができ、どんな会社にどんなプロジェクトがあるのか、具体的にイメージすることができました。小さな会社の特徴や扱っている作品について知るのは、大会社のコンタクトを見つけるよりも、ずっと大変です。この仕事は最初に担当者を見つけるのが肝心で、あとはメールを通した長期のやり取りになり、多くは年単位の仕事になります。この点では大手も中小も変わりません。」
また、ジェトロの配慮で商談に日露通訳がついたことも、「日本が専門」というわけではないスミルノフ氏にとってはありがたかったという。「外国での商談で、これまで一度もロシア語通訳をつけてもらったことはなく、いつも英語で話していました。しかしやはり、ロシア語と日本語で話せたことはとても良かったです。良い意味でびっくりしました。」
イスタリ・コミックスやMVKのような会社が更に活躍することにより、正規ルートのコンテンツが増え、ロシアの誰もがテレビや映画館で気軽に日本のアニメーションを楽しめるような時代が来るかもしれない。