平林勇監督インタビュー:初長編「Shell and Joint」モスクワ国際映画祭で上映、監督の「好き」がつまった作品

世界四大映画祭のひとつ、モスクワ国際映画祭が開催中だ。第41回を迎えるこの映画祭に初めて招待されたのは、テレビやCMの演出など、多方面で活躍する平林勇(ひらばやし・いさむ)監督だ。平林監督は、短編映画を得意とし、カンヌ、ベネチア、ベルリン、ロカルノといった数々の著名な国際映画祭で高い評価を受けてきた。今回の招待作品「Shell and Joint」は、カプセルホテルを舞台に様々に展開される人生の断片を描いたもので、平林監督にとって初の長編映画である。スプートニクは、モスクワを訪れた平林監督に話を聞いた。
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スプートニク日本

スプートニク:モスクワ初訪問、映画祭初参加ですね。映画祭に招待されたとき、どんな気持ちになりましたか。

平林監督「モスクワ映画祭は権威が高すぎるイメージがあり、ヨーロッパの映画祭と違って商業的ではないと感じていました。僕はこれまでも短編映画を出してきましたが、モスクワ映画祭には一度も選ばれず『モスクワには縁がない』と思っていたので、初の長編で選んでもらったことは、とても意外でした。東欧は全く初めてで、全てが違う感じがします。建物が直角なのが印象に残りました。」

「Shell and Joint」というタイトルに込められた意味について教えてください。

「『Shell(殻)』と『Joint(節足)』がこの作品のモチーフであり、舞台となっているカプセルホテルはそれぞれのカプセル=シェルが連結、つまりジョイントしています。このように二つの意味があります。節足動物をモチーフにしたのは、実は僕自身、節足動物が大好きなんですよ。今回は作品の中に個人的な趣味、好きなものを思いっきり入れ込むことができました。そこまで監督が勝手にやっているというのは、世界的にもあまりないかもしれないですね。映画のフォーマットを変わったものにする人はたくさんいますが、個人的に好きなものを全部入れ込むというのは、なかなか珍しいと思います。」

平林勇監督インタビュー:初長編「Shell and Joint」モスクワ国際映画祭で上映、監督の「好き」がつまった作品

映画の構造が革新的だと評判です。どこからこのような構想が生まれたのですか。

「確かに、構造は普通の映画と違います。色々なシーンがいっぱい入っていて、交わることがありません。ほぼ『ぶつ切り』で、それが一つの作品になっているので、短編がたくさん入っているような、そんな映画なんです。でも全体を『生・死・性』が支配し、モチーフである節足動物・甲殻類がちりばめられています。それは、美術館や動物園に行くのと似ているかもしれません。それぞれの絵や彫刻、動物を別々に見ていくわけですけど、最後にそれらがひとつになって、今日は『美術館に行った』『動物園に行った』という実感がわきます。どういう順番で見てもいい、そういう見方ができる映画を作ってみたかったんです。ヨーロッパではそういったものを作っているので、僕の作品が世界的に珍しいわけではありません。ただ、日本人でそれをやったというのは、珍しいかもしれません。これまでのヨーロッパの映画祭では、人と違うことをすると、リスペクトしてくれる感触がありました。モスクワでもそこを評価してくれたのかもしれません。」

この作品ではカプセルホテルが重要な役割を果たしていますが、日本らしさを意識したのでしょうか。

「プロデューサーから提案され、最初にプロジェクトが立ち上がったときは、カプセルホテルを舞台にしたドタバタ劇になるはずでした。東京五輪もありますし、カプセルホテルは日本らしいモチーフですし。しかし、僕が、自分が作りたい方向にちょっとずつずらしていった結果、こうなりました。止められることもなく、好きなようにやらせてもらえました。」

平林勇監督インタビュー:初長編「Shell and Joint」モスクワ国際映画祭で上映、監督の「好き」がつまった作品

「Shell and Joint」はインディペンデント映画で、低予算で撮られたと聞いています。商業映画との違いはありますか。

「この映画は複数社でお金を出し合って作ったものです。予算としてはとても154分の映画が作れるような額ではなく、本当の意味でインディペンデント映画です。予算が少ない場合に普通の映画を作ってしまうと、普通のこじんまりした映画になってしまいます。ですから、予算がないぶん、エッジを効かせなければいけません。それでないと映画祭の目にはとまりません。短編を作っていたときから、『人と違うことをしないと居場所が与えられない』と思っていました。いわゆる、いい話というのは競合がたくさんありますが、すぐにはわかりにくい話のほうが、居場所があります。原作があるような商業映画も良いのですが、それは作品というよりも、『仕事』になってしまいます。僕は、まずは作品を作りたいという気持ちがありますし、今回は、作品を作ったという実感があります。」

影響を受けたロシア映画はありますか。ロシアで上映されるのはどんな気持ちですか。

「ロシア映画で好きなのはアレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』です。強烈な作品で、ストーリーなんてなくて、泥まみれのモノクロ映画です。そういう映画が作られた国で、自分の作品が上映されるというのは嬉しいことです。国内で関係者向けの試写会はありましたが、一般のお客さんが入るのは初めてなので、ロシアの人がどういう風に見てくれるのか、すごく楽しみです。」

日本で公開の予定はありますか。次回作の構想はあるのでしょうか。

「今年中に劇場公開の予定ですが、詳細はこれからです。僕の場合、やりきってしまうと気持ちは次の作品に行ってしまうので、後はプロデューサーにまかせた、という気持ちです。次回作は、今回の半分くらいの長さで、一個の話としてもう少しわかりやすく、もう少し人々に歩み寄ろうかな…と思っています。」

公開に先駆けて、ファンにメッセージをお願いします。

「構造は普通じゃありませんが、見始めると意外と普通に楽しめて、長さを感じない映画です。とにかく見てください!」

平林勇監督インタビュー:初長編「Shell and Joint」モスクワ国際映画祭で上映、監督の「好き」がつまった作品

インタビューには、映画出演は初めてという新人女優のSanae Margaretさんも同席してくれた。平林監督は「オーディションのとき、変わった人が来たな…と思ったんですけど、役があったんですよね」と笑う。役者として優秀でも、ぴったりはまる役がない場合は、断らざるを得ず、今回はそういう人が続出したそうだ。ところがSanae Margaretさんのように駆け出しでも、監督のイメージにぴったりという場合もあり、役との出会いはもはや運命だと言えるだろう。Sanae Margaretさんはいきなり全裸シーンに挑戦した。そのシーンのカットは「Shell and Joint」のイメージフォトとして映画祭の公式サイトに採用されている。

Sanae Margaretさんは出演作をふりかえり「初めての映像作品出演でモスクワまで来ることができ、本当にありがたいです。自分のシーンは、シャワールームの中に蚊がいるというシーンで、蚊がいないけれどもいる、みたいな感じで、ないものをあるかのようにするのが、演技をしていく上で勉強になりました。ロシア人の皆さんの反応がとても楽しみです」と話している。

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