日本経済の専門家であり、モスクワ大学で地政学を教えるヤーナ・ミシェンコ氏は、日本は商業捕鯨再開によって、利益の対立が生まれ、ある種の「網」にはまると話す。
「日本は地球環境を保護するという社会的に責任を果たす国として、自国をポジショニングしている。ということは、日本はあらゆる手を尽くして植物界や、クジラやイルカといった哺乳類を含む動物界を守らないといけない。そういった哺乳類のうち、多くはまだ、レッドリストに入っている。しかし他方で、日本政府が守らないといけない日本独自の経済的利益というのもある。」
日本政府はもちろん、環境保護者や動物愛護者からの批判に答える用意がある。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所で日本の政治経済研究に従事するヴィタリー・シュヴィドコ氏は、トランプ氏は米国をパリ協定から離脱させた際、米国の産業への利益が何よりも大事だと明言したことを引き合いに出し、IWCからの脱退のメリットとデメリットをあらゆる角度から考慮し、日本はある意味でトランプ米大統領のトレンドを追っていると言える、と指摘している。
「トランプ氏は、環境学者らの懸念は非常に誇張されたものであり、根拠がないと考えている。おそらく日本も、捕鯨を禁止するという立場を貫く海外の機関の警告に対し、同じような態度を取ろうとしているのだろう。」
日本では、鯨肉を食用にすることは伝統的な食文化であり、IWCからの脱退は長い間検討されていた。シュヴィドコ氏は、参院選を前に、政府はタイムリーな時期に脱退した、IWC脱退は与党にとって有利だと見なしている。
「クジラ漁をしたい団体は、捕鯨禁止のせいで損害が出ているとし、政府に対して長いことロビー活動をしていた。IWC脱退により、日本政府は漁業関係者の利益を守っているという姿勢を見せることができる。それに、この30年間で、クジラの数が復活したというデータもある。今はもう、環境や個体数に損害を与えない形で、捕鯨を再開できるというわけだ。日本は、捕鯨は一定のコントロールのもとに行なわれ、捕ってもよいクジラの数の割り当て数を限定した上で行われると強調している。」
1987年から日本は、自国の研究プログラムの枠内で、毎年200から1200頭のクジラを殺してきた。現在、日本は、日本の排他的経済水域の中で、今年いっぱいまでに3種のクジラ、合計227頭を捕ってもよいという割り当てを設定した。内訳はミンククジラ52頭、ニタリクジラ150頭、イワシクジラ25頭である。
このような制限数の設定は、「実際に殺されるクジラの数を減らす」ことにつながると予想している専門家もいる。
シュヴィドコ氏は、日本における鯨肉の人気は以前と比べるとそれほどでもないが、鯨肉を食用とすることは日本人にとって意味がある、と考えている。
「近年、日本のスーパーでは、鯨肉は高級食材になり、日常的な食べ物ではなくなった。鯨肉を食べるということはリッチで、値段も安くない。それでいてじゅうぶん採算はとれている。追加の収入が見込めるならそれは誰にとっても邪魔なものではない。しかも、鯨肉をレストランで提供すれば、旅行者にとってエキゾチックな要素となり、魅力的かもしれない。」
19世紀後半から20世紀前半にかけ、捕鯨産業が広まったことにより、クジラは絶滅寸前となった。その当時、積極的に捕鯨をしていたのはノルウェー、英国、米国、ロシア、そして日本であった。20世紀前半、捕鯨の場はおもに南極地方だった。
1946年、クジラの個体数を守り、捕鯨産業に秩序をもたらすため、国際捕鯨取締条約が調印された。この条約にのっとって、IWCが設立され、米国、英国、ソ連は、1948年から委員会のメンバーになった。日本は1951年に委員会に加わった。
1986年からIWCは、様々な種のクジラが個体数を回復できるよう、商業目的の捕鯨の停止を決めた。
この後、IWCに加盟する国々により、個体数回復という科学的な目的のために調査捕鯨が行なわれた。また、鯨肉が主な食料となっている世界の複数の場所で、原住民たちの捕鯨が認められた。
原住民による捕鯨は、ロシアのチュコトカ、デンマーク領グリーンランド、米国のアラスカ、そしてセントビンセント・グレナディーン諸島で認められている。そうした原住民に対する、2013年から2018年までのロシアと米国の合同割り当てはコククジラ744頭とホッキョククジラ336頭。2019年から2025年までの割り当てはコククジラ980頭とホッキョククジラ392頭だ。
商業捕鯨が停止されてから、調査目的のために捕獲されたクジラは世界で17839頭。その内訳はナガスクジラ310頭、マッコウクジラ56頭、イワシクジラ1563頭、ニタリクジラ734頭、そしてミンククジラ15176頭である。