日本の大手設計事務所・日建設計は、モスクワ市民の生活を向上させるプロジェクトを手がけている。モスクワ北部「ボタニーチェスキー・サード」や南部の「ワルシャフスカヤ」では、工業団地を緑あふれる住宅に生まれ変わらせる再開発プロジェクトが進んでおり、公共交通機関に基盤を置いた利便性の高いまちづくり(TOD=Transit Oriented Development)が行なわれている。
モスクワ市の都市インフラ建設の責任者、マラト・フスヌリン副市長がアーバンフォーラムで発表したところによると、この8年間で地下鉄駅とモスクワ中央環状線の駅が合わせて81建設され、155キロ延伸した。2023年までにさらに50駅を建設予定で、130キロを延伸する予定だ。そうなれば、モスクワ市民の9割が、地下鉄駅までバスを使わず歩いていけるようになる。
これらの新駅には、フスヌリン氏の強いリーダーシップでTODの発想が反映され、駅と住まいと商業施設が隣接することになる。フスヌリン氏は東京の町並みを視察し、「日本のTODは、単に駅と商業施設がつながっているだけではない。これは生活の姿そのものだ」と感銘を受けた。その経験をモスクワで生かそうとしている。
モスクワアーバンフォーラム:日建設計亀井社長「都市の変化、世界にもっとアピールを」
© Sputnik / ©Asuka Tokuyama / 東京駅の再開発についてプレゼンする日建設計・亀井社長
何度もモスクワを訪れている亀井社長だが、その変化のスピードには目をみはるものがあると話す。
亀井氏「今回のフォーラム会場のザリャヂエ公園は、以前に来たときは工事中でした。それが、とてもオープンな雰囲気の空間になっていて、こんなパブリックスペースがモスクワにできたことが驚きです。道路も舗装の状態が良くなっているので、歩行者にも優しいアーバンデザインの努力がされていると感じました。また、地下鉄の建設が予想以上に急ピッチで進んでおり、驚いています。ただ、日本ではほとんどそういう情報がなく、知られていません。これは残念なことで、モスクワはもっと自分たちを世界にアピールするべきだと思います。そうすればより投資も呼び込めると思います。また、モスクワの歴史的遺産は非常に貴重なものですが、それらを世界レベルの観光資源にしていくには、もっとアクセスしやすくしたり、バリアフリー問題を改善するなど、もう少しホスピタリティ向上の努力が必要だと感じています。」
ディスカッションでは、モスクワの高層ビルの屋上を緑化してファームにするというアイデアも出た。夏になるとモスクワでは毎週金曜日に、郊外の別荘(ダーチャ)へ向かう人々で大渋滞になる。土日は畑仕事をしたりバーベキューをしたりして田舎で過ごすのだ。しかし、都会で野菜づくりが楽しめるようになれば、渋滞に苦しむこともなくなる。亀井氏は「歴史的な生活スタイルを少し変えていこう、と人々が思い始めている」と指摘する。
日建設計は、モスクワだけでなく、極東・沿海地方でもプロジェクトを手がける。今年4月には、ウラジオストクの再開発の指針となる「マスタープラン」を策定し、オレグ・コジェミャコ知事に紹介済だ。ロシアは、ウラジオストクを魅力ある利便性の高い町にすることで、「東の首都」により多くの投資を呼び込みたいと考えている。
関連ニュース