アークティックLNG2:グローバル経済を背景にしたグローバルな政治

日本の投資家がノヴァテクのLNGプロジェクト「アークティックLNG2」で持ち分10%を取得した。プーチン大統領と安倍首相の臨席の下、G20大阪サミットに合わせて合意書が署名された。取得したのはJOGMECと三井物産のコンソーシアムで、オランダに登記されているJapan Arctic LNG B.V.である。スプートニクは、この取引が日本のビジネス界にとってのどのような重要性を持つのか、ロシアのエネルギープロジェクトへの外資参画に積極的に反対するアメリカから何らかの反応が予想されるのかを専門家に聞いた。
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日本経済の専門家で国立モスクワ大学地政学科のヤナ・ミシェンコ講師によると、ロシアの同様のプロジェクトに対する日本ビジネスの関心は古く、日本がアメリカに気兼ねすることなく進めている戦略と関連しているという。

「日本人は70年代の石油ショックの時代に、もう世界市場で安い石油を買うことは不可能だと悟り、エネルギー戦略を立て直し始めました。その戦略によると、日本の国家エネルギー安全保障は日本のビジネスが外国のプロジェクトでどれだけを持ち分を取得することができるかにかかっています。このほか、日本はLNG技術のパイオニアです。国内に天然ガス資源はないものの、日本は数十年前からLNGに関するあらゆる最新技術を持っています。ロシアには天然ガスはたくさんありますが、LNG技術については、2009年にサハリン2プロジェクトで初めて日本から入手し、サハリンに最初のLNG工場を建設したのです。2つめの工場がウラジオストク郊外に建設中ですから、日本がアークティック2プロジェクトに関心を示したことは決して驚きではありません。」

JOGMECによると、出資ではJOGMECが大部分を担うものの(75%)、議決権の半分以上は三井物産が持つという。日本専門家でNHKモスクワ支局の元職員であるアンドレイ・フェシュン氏によると、このスキームは企業のあらゆるリスクを最小化する助けになるという。

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「10%とは、状況が否定的に傾いたときに日本側が失っても痛くない金額。しかし重要なのは、日本のビジネス界がアークティック2プロジェクトの利点をよく認識しているということです。北極海航路を通じたLNG輸送は、世界のエネルギー界で最も将来性のある方向性の1つであり、日本はここに自らのニッチを見出そうとしています。日本は政治的にも国際問題でもアメリカの方針に従い続けていますが、同時に経済面では独自の立脚点を探しています。なぜなら、アメリカは経済的にはすでに信頼できるパートナーではなくなっているからです。トランプは中国と喧嘩したかと思えば仲直りをする。日本はアメリカと中国という重量級の経済大国の争いに巻き込まれることを危惧しています。しかも、トランプは日本との戦略的パートナーシップを約束しておきながら、アメリカに輸入されるすべての日本車への関税引き上げをすでに示唆しています。これは日本の自動車業界にとっては大打撃です。中東の不安定な情勢やエネルギー資源の問題も考慮しなければなりません。」

ロシアにとっては、日本の投資家がアークティックLNG2プロジェクトに参画することは、まずなによりも、世界最大のLNG市場である日本の市場へのアクセスを得ることを意味する。また、今後起こり得るアメリカの制裁に対する一定の保護にもなる。ノルドストリーム2を取り巻く情勢が示している通り、親欧米のパートナーが参画していることは、アメリカの攻撃を回避する絶対的な保証にはならないものの、少なくとも制裁発動を難しくはする。

アメリカ上院議員による熾烈なイニシアチブはロシアのノバテクにとってもリスクなのだろうか?というのも、アメリカは他でもないアメリカ産LNGの消費国として日本を当てにしているのだ。(パナマ運河の拡張を受けて、日本をアメリカ産LNGのアジア全域での販売拡大の拠点にもできると考えている。)

ヤナ・ミシェンコ氏は、アークティック2プロジェクトについては、ノルドストリーム2で見られたような、アメリカ側の激しい反対は避けられるだろうと考えている。

「LNGに関するロシアとの競争では、アメリカはすでにやるべきことはやっているのです。これまで2年間、サウジアラビアのサウジアラムコがアークティック2プロジェクトに参画する可能性が話し合われてきましたが、サウジアラビア側は30%の持ち分を求めていました。ところが、ロシアは日本が取得したのと同じ10%を提案していました。サウジアラムコはこれを飲めず、結果として、アメリカがかっさらったのです。サウジアラビア側はアメリカ最大のLNGプロジェクトであるポート・アーサーLNGプロジェクトに持ち分を取得しました。ロシアも特に取り乱すことなく、新たなパートナーとして日本企業を見つけました。ですから、これは誰もが納得する引き分けだったと言えるでしょう。」

政治学者で国際関係と日本研究の専門家であるドミトリー・ストレリツォフ氏も、日本がロシアのエネルギープロジェクトに参画したことには、全体として、アメリカ側も理解を示すだろうと考えている。

「現在のアメリカの対ロシア制裁は長期的なものですが、これ以上の状況悪化は誰も望んでいません。ましてや、日本自身がエネルギー資源供給の多角化を望んでおり、日本企業のアークティック2への参画はかつてから議論されていて、今のところ厳しい評価や感情的批判も出ていません。むしろ欧米側も、北極のプロジェクトでロシアが中国への経済的依存を減らすことを望んでいるのです。」

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とはいえ、中国企業2社がこのプロジェクトに一度に参画したことで、アークティック2プロジェクトが予定通り2023年~2025年に実現する可能性は高まっている。(中国のCNODCとCNOOCのプロジェクト参画に関する合意書は「一帯一路フォーラム」の一環で締結された。中国各社はアークティック2プロジェクトにそれぞれ10%の持ち分を取得する。CNODCは以前、ノバテクの別のプロジェクトであるヤマルLNGで20%の持ち分を取得している。)

中国の投資流入は、中国側のLNG輸入増加の意向を裏付けるものだ。もしかすると、今後、日本はこの点で中国との競争を余儀なくされるかも知れない。プロジェクト参画への関心は韓国のKOGASも示している。現段階では、ノバテクのCEOであるレオニド・ミヘリソン氏がジャーナリストとの会話の中で、今後9ヶ月の間にアークティック2プロジェクトに大規模な日本のパートナーが新たに加わる可能性があると発言している。

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