NEDOが取り組んでいるロシアの社会問題は、渋滞の解消だ。交通量に応じて自動で信号を調整し、待ち時間を最小にしてくれる「スマート信号」を設置することで、渋滞の解消を目指す。これは日本を代表する信号システムメーカー、京三製作所による高度交通信号システム「ARTEMIS」を取り入れたものだ。この信号の実証実験はすでにモスクワ、ヴォロネジ、ウラジオストクで行われ、いずれも高い渋滞解消効果を見せた。
ロシアの大都市はどこも慢性的な渋滞に悩んでいるため、他の都市への展開が期待されている。昨年はロシアの5都市で、スマート信号を設置した場合の渋滞緩和シミュレーション調査が行われた。例えばサハリン州の州都、ユジノサハリンスクでは30パーセントの渋滞緩和が可能というデータが出ている。さらに今年は9都市で調査が行われる予定だ。合計14都市の結果がまとまり次第、どの都市で実証を行うか、最適な場所を選んでいくことになる。このシステムを「ロシア全土に置きたい」と話す石塚理事長。実現すれば、ロシア=渋滞というイメージはおそらく消えていくだろう。
そしてもうひとつ現在進行形で取り組んでいるのが、ロシアのサハ共和国ティクシ市における風力発電プロジェクトだ。ティクシはサハ共和国の北端に位置し、1月の平均気温は約マイナス40度、冬が8か月以上も続く、非常に厳しい自然環境だ。過去にもドイツ企業やフィンランド企業がサハ共和国における風力発電にチャレンジしたが、撤退した。それだけに、日本には大きな期待がかかっている。
こういった場所では従来、小規模のディーゼル発電に依存することが多かった。その場合の電気代は非常に高額で、住民の負担軽減のため地方政府が電気代を補助している。風力発電で安定的に電気を供給できるようになれば、今まで差額補填していた金額を、他の必要な分野に支出できるようになるというわけだ。すでに発電所兼建屋の建設に向けた様々な準備が始まっており、関係者は来年夏からの発電実証実験開始を目指している。
ロシアのウラジーミル・ヤクシェフ建設・住宅公営事業大臣は、日本の経験を取り入れて都市環境を改善するためには、議論すべき課題が非常に多いと話し、「日本の協力でヴォロネジやウラジオストクで行なっているような生活の質を向上させるプロジェクトを、他の地方でも展開できるようにしたい」と希望を述べた。