国民の人気者
スケートの完成度という意味では、最近、羽生選手にはライバルが登場している。例えば、さいたまの世界選手権で羽生選手をおさえて優勝したネイサン・チャン選手だ。しかし、観客にここまで愛される選手はほかにいない。
羽生結弦選手ほど、信じられないほど強固なファングループを形成したスケート選手はこれまでにいなかった。羽生選手のファンは、応援のためなら、世界のどこへでも飛んでいくということをあらためて証明した。昨年、モスクワで行なわれたグランプリシリーズの公式練習には、2000人のファンが日本から訪れていた。
カナダの小都市、日本風に変貌
カナダの小都市ケロウナには少しばかりの日本人が住んでいるが、スケート・カナダの開催期間は、町の様相はこれまでにないほど日本的になる。バスの中でも、スーパーでも、そして単に路上でも、日本語で話している声が聞こえてくるのだ。
10月24日、公式練習が行なわれた。ここにはチケットを買えば誰でも入ることができる。会場の席は部分的にしか埋まっておらず、そのうち半分は日本人だった。なので、観客席にいると、特に羽生選手が出てきたときは、まるで日本にいるかのような感覚を覚えた。そう、まるで、世界選手権のあった埼玉にいるようだ。
会場のプロスペラ・プレイスの方も、たくさんの日本人のために準備をしている。主催者は英語のアナウンスのあとに日本語でもアナウンスをした。そんなに巧みではないが、非常に、先見の明がある。
まさかの事態!プーさんのぬいぐるみがどこにもない?
しかし会場側がすべてのニュアンスを考慮したというわけではない。羽生選手の愛するプーさんのぬいぐるみが買える場所がどこにもないのだ。なので、「プーさんの雨」を降らすことができるのは、ぬいぐるみを持参してきた準備のいいファンだけである。しかし、日本人のファンにとっては、それは問題にはならない。
羽生選手のおかげで友達の輪が広がる日本人ファンたち
東京から来た灘波みなみさんは、ショートプログラム用とフリースケーティング用に、プレゼントを用意してきた。他のファンと同様、これは灘波さんにとって、羽生選手応援の初の海外遠征、というわけではない。
やはり、応援に来た、日本人ファンの塚本毬乃さんは言う。「私はぬいぐるみは持っていませんが、私の友達は羽生選手へのプレゼントをたくさん持っています。この間の試合で、同じファンの友達ができて、今日はその人と一緒に観戦しに来ました。その友達はいっぱいプーさんを持っています。」
プロスペラ・プレイスのプレスセンターにいるジャーナリストの姿を一瞥してみると、どの選手が一番応援されているかよくわかる。主催者によれば、スケートカナダのために、100人以上の日本人記者がやって来た。これは、記者団全体の、4分の3、とまではいかないが、最低でも3分の2を占めるという。
そんなわけで、羽生選手にとっては、どこで試合をするかは関係がない。ファンの大部分は、彼がどこで滑ろうと、応援についていくからだ。さいたまでの世界選手権ではスーパーアリーナで1万8千人が観戦し、券を買えない人もいたが、今回は6886席と、観客収容数は控え目だ。しかしこのプロスペラ・プレイスは、5年前のスケートカナダで、羽生選手の友人である無良崇人選手が優勝に輝いた場所でもある。日本男子シングルの栄光が、ここケロウナで、繰り返されることを期待しよう。
GPシリーズは、6大会で構成されている。今シーズンはラスベガスの他、ケロウナ(カナダ、10月25日〜27日)、グルノーブル(フランス、11月1日〜3日)、重慶(中国、11月8〜10日)、モスクワ(ロシア、11月15〜17日)、札幌(日本、11月23日~25日)で開催され、男女シングル、ペア、アイスダンスの成績上位6名(組)が、トリノ(イタリア、12月5日~8日)で開催されるGPファイナルに出場する。
優勝賞金は1万8000ドル。なお2人組で行うペアとアイスダンスは1組で同額。2位は1万3000ドル、3位は9000ドル、4位は3000ドル、5位は2000ドル。GPファイナルの賞金は大幅に高くなり、1位は2万5000ドル、2位は1万8000ドル、3位は1万2000ドル、4位は6000ドル、5位は4000ドル、6位は3000ドル。