ユジノ・サハリンスク新総領事に着任の久野和博氏 「日露双方の関心を掘り起こしていきたい」

日本人外交官の久野和博氏は今年2019年10月、サハリン州の州都ユジノ・サハリンスクの日本国総領事館に総領事に着任された。ロシア通の久野総領事がリアノーボスチ通信からの取材に答え、ロシアでの職務やサハリン、クリル諸島と日本との結びつき、極東での日露関係の展望について、また心動かされるロシアの伝統について、語ってくださった。久野氏はユジノ・サハリンスクへの赴任のはるか昔、数年間、モスクワの日本国大使館に勤務されていた。このためロシアについての造詣は深く、ロシア文化にも精通しておられる。
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『地理的には対極、でもひとは似ている』

リアノーボスチ「総領事はサハリン勤務を命じられるまでにロシアで4年間の勤務経験をお持ちです。総領事からごらんになられて、何がロシアと日本を一つにし、何がロシアと日本を特有なものにしているでしょうか?」

久野総領事「ロシアを特有なものにしているのはなによりもその国土の大きさだと思います。ロシアは西から東まで地球をおよそ半周、北から南までおよそ北半球の半分に至るような広大な国土を有する大きな国です。その大きなロシアを一つにするのが美しいロシア語です。ロシアは多民族社会でありつつも、広大な国土の隅々まで通じるロシア語に基づいて、地球の他の地域の国々とは様相が異なる独特の社会・文化を創り上げています。

同様に、日本を特有にしているものも、地理的条件だと思います。日本はロシアと比較して国土が小さく、南北に連なる列島から成立つ島国です。天然資源にも恵まれているとは言えません。そのため、日本が頼るのは『ひと』であり、国造りの基礎には何よりもまず教育が常にありました。

確かに地理的に見ると、ロシアと日本は対極にある国です。しかし、いずれの国にもよく教育された、知的好奇心旺盛な人的資源が存在しているという点において、この二つの国は共通していると思います。」

リアノーボスチ「ロシア人の日本に対する興味、日本人のロシアに対する興味が増す潜在的な可能性はあるでしょうか?」

久野総領事「はい、あると思います。ロシア人も日本人も、好奇心に溢れ、異文化に高い興味関心を有するという点で共通しています。ロシア人、日本人の双方に互いに対する関心を高める余地は大いに残っていると思います。また、私も微力ながら、双方の関心を掘り起こしていきたいと思います。」


『乾杯は人知に基づいた優れた習慣』

リアノーボスチ「久野総領事はロシアの風習はお好きでしょうか。またロシアの作家や作曲家で好きな人はいますか。有名なロシアの寒さをどう耐えてこられましたか?」

久野総領事「ロシアにはたくさんの温かい風習があります。特に、挨拶をしながらウォッカで乾杯という風習は、その場で初めて知り合った人同士でも友達になることを可能にする、人知に基づいた優れた習慣だと思います。ただし、我々外国人がこのロシアの習慣についていくのが容易ではありません。私もそろそろ良い年齢になりましたので、今回の赴任では慎重に楽しみたいと思っています。どうぞお手柔らかにお願いします。

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ロシア外交アカデミーで研修した際、ロシア語の先生が文学の専門家でしたので、プーシキン、チェーホフ、オストロフスキー、ゴーゴリ、トルストイ、ドストエフスキーなどのロシアの文学作品を読みました。それに先立つ米国での研修ではソルジェニーツィンを読みました。ロシア文学はすばらしいと思いますが、小説もさることながら、韻文小説や戯曲は演劇やオペラとして楽しめるのが魅力です。ボリショイ劇場では『エフゲニー・オネーギン』などオペラを楽しみました。二回目のモスクワ勤務の際にはボリショイ劇場は修復中でしたが、モスクワ芸術劇場でチェーホフの演劇を楽しみました。前の前の任地のニューヨークを去る際にメトロポリタン劇場でオペラを鑑賞しましたが、数ある演目から選んだのは『エフゲニー・オネーギン』でした。今、チェーホフの『サハリン島』をロシア語で読んでいます。

モスクワで経験したロシアの冬は、寒さだけでなく、日が短いのが私には応えました。それを克服するよい方法は、一つは外に出て歩くスキーをすること、もう一つは何よりも友人を家に招いて談笑しながら時を過ごすことであったと思います。」


 『サハリンは新婚旅行の思い出の地』

久野総領事は今まで、米国、ラオス、イスラエルだけでなく、国連の枠組みでも幅広い外交キャリアを積んでこられた。ところがそんな海外経験豊かな久野氏の、殊更心に刻まれる思い出の地は、実はサハリンだ。

リアノーボスチ「サハリン総領事館を率いるとの人事をどう受け止められましたか? 極東の公館で勤務することを夢見ておられたでしょうか?」

久野総領事「久しぶりのロシアに戻ることへの郷愁にも似た気持ちが1割、初めて館長というポストにつくことへの不安が一割、使命感が8割。極東での勤務は予想していませんでしたが、そう言われた時に全く驚きはありませんでした。」

リアノーボスチ「サハリンについの第一印象を、新婚旅行を踏まえて教えてください。」

久野総領事「モスクワでの2年間のロシア語研修の一年目を終えた1992年7月、日本で結婚式を挙げたばかりの私は妻とともに新婚旅行でサハリンに赴きました。なぜサハリンなのか、と言えば、もう一年すれば館務に上がるので、そうなったらなかなかロシアの国内旅行をすることは難しくなるだろうから今のうちにしておこう、であれば広いロシアの中でモスクワから一番遠く、一番日本に近いサハリンから始めよう、といった風に考えたように記憶しています。

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当時のモスクワでの生活は、特に一年目の冬はその寒さもさることながら、午後4時頃なると暗くなるほど日が短く、そうした中でロシア語の宿題に追われながら日常生活のために買い物をしたり食事を用意したりするのに労力がかかりました。その初めての冬を乗り越えて結婚し、妻とともに訪れた初夏のユジノ・サハリンスクは、明るく、やさしいものに映りました。ガガーリン公園に至る通りには、何軒か露店が並ぶ形で花が売られていて、花が沢山あったからかもしれません。モスクワでは見かけない日本風の建築を見て、ほっとしたからかもしれません。通りの花屋さんで妻のために花を買った後、訪れたガガーリン公園では、チェスに興じるロシア人に遭遇しましたが、ゆったりと豊かな時間を過ごしている印象を受けました。日を改めてコルサコフにはバスで行きました。港を見下ろす丘の上にある並木道を港から離れる方向に歩いて、並木道に面したある書店に入って、なぜか興味を惹かれて地図を買ったのを覚えています。その後博物館を訪れて、昭和天皇が大泊を訪れた際の記録が残っているのを見つけ、そういう歴史があったことを初めて知りました。

その次の日には、鉄道でホルムスクを訪れました。列車は山間を曲がりくねりながら進んでいったような記憶があります。最後に間宮海峡に開けた港町の駅に着いた時には、『トンネルを抜けると、そこはホルムスクだった』といった感じの開放感を感じたのを思い出します。帰りの列車の出発時間が許すまで、街を散策しました。

最後の日はユジノ・サハリンスクで、今は残っていないかもしれませんが『みずうみ』という日本食レストランで食事をしました。当時のモスクワには日本食レストランはありましたが数は限られていたことに加え、たしか蟹を使った料理を食したので、新鮮な印象を受けた記憶があります。

これが記念すべき私と妻の新婚旅行となりました。そして、これが私のサハリンの第一印象とほぼ重なります。もしご関心の向きがあれば、総領事館のHPに私がこのサハリン旅行で撮った写真があるのでごらんください。」


『日本とサハリン州の関係をすべての分野で拡大したい』

久野総領事はサハリン赴任の最初から、サハリン州でのあらゆる分野の日露関係の拡大計画を、重要な社会人道分野も含めて、念頭に入れておられる。

リアノーボスチ「サハリン地域の日本総領事としての主要課題は何でしょうか。サハリンと日本の人的・文化関係を総じてどう評価されますか?」

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久野総領事「日本とサハリン州の関係をすべての分野で拡大していくことです。そのためには人的交流の質と量を更に高めていくことが重要です。これまでも日本とサハリン州の間ではさまざまな形で文化やスポーツを通じた交流、姉妹都市間の各種の交流が盛んに行われてきていると評価いたしますが、特に2020年から2021年は日ロ地域交流年に当たることを踏まえ、更にこの流れを強化したいと考えています。」

リアノーボスチ「サハリンではこの10年以上にわたって日本映画・文化祭が行われています。これからもこの伝統は続きますか?」

久野総領事「はい。日本映画日本文化を紹介する行事は総領事館が主催するもの、総領事館が他のステークホールダーと連携して行うもの、他のステークホールダーが独自に実施するものなど、色々な形態を取りつつ、今後も続けていきます。どうぞご期待ください。」

リアノーボスチ「『南クリル』への日本ビジネスミッションは2019年も継続されますか?」

久野総領事「北方四島における共同経済活動として、6月の日ロ首脳会談で一致した観光およびゴミ処理の分野のパイロットプロジェクトが実施されました。ゴミ処理分野では、8月に四島の関係者が根室市を始めとする北海道本島を視察し、9月には日本人専門家が四島を訪問しました。」

リアノーボスチ「日本人観光客の『南クリル』へのパイロットツアーは延期されましたが、これからも実施されるのでしょうか?」

久野総領事「当初予定されていた日程は延期されましたが、その後改めて日程調整が行われた結果、10月30日から11月2日まで,北方四島における共同経済活動として観光パイロットツアーが実施され、日本人観光客の方々が初めて北方四島を観光で訪れました。」

リアノーボスチ「サハリン州と北海道の住民の間のビザなし交流は拡大されますか?」

久野総領事「日露間では,共同経済活動のための人の移動の枠組みについてやり取りを行ってきています。日本側としては双方の法的立場を害さないとの原則に基づき、共同経済活動の円滑な実施に資する枠組みとなるよう協議を進めていく考えです。」

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