トリプルアクセルはウルトラCの得意技
トリプルアクセルはウルトラC級の技とされており、つい最近まで女子でこれが跳べる選手はごく稀だった。ところが時代は変わった。ゴンチャレンコ監督は、今や表彰台を狙う強豪選手を代表する技には、トリプルアクセルと4回転ジャンプはキメの技とされていると言う。
「トリプルアクセルは女子にはあまり好まれる技ではありません。ところがアリョーナ・コストルナヤにとってはジャンプの中でも大好きな技の1つです。おそらくこれを跳ぶのは彼女にとってはあまり難しくないんでしょう。トゥトベリーゼ監督の下で小さな時から上手に跳べるように訓練されていましたし、ジュニア時代に磨きがかけられていましたから。このトリプルアクセルは、近い将来、必ず勝利したいという選手は全員、絶対に好きにならざるをえなくなるでしょうね。どうしてかというとこれをSPで跳べば、フリープログラムに入る前に得点が稼げるでしょう。だから強い選手がトリプルアクセルを目にするチャンスはこれからますます増えていくはずです。」
「あの子は大会の華」
ゴンチャレンコ監督はグランプリシリーズの大会ごとに日本人選手に大きく注目していると打ち明けた。演技を見るのが楽しみで仕方ない、と監督がいう日本人たちは、ジュニアの時代からその成長を追ってきた選手ばかりだ。そんな中に宮原知子選手がいる。宮原はグランプリのファイナル出場は逃してしまった。だがゴンチャレンコ監督は欠場が出た場合、宮原にはまだ出場のチャンスがあると励ましている。
プログラムはどれも寸劇のように仕立てられていて、彼女がでると大会に華が添えられます。すごいのは2方向に回転できること。ただモスクワでは今一つ決まりませんでした。サトコは少し疲れているように私には思えました。気候の変化に順応しきれなかったのかもしれない。中国からの長旅のせいじゃないでしょうかね。でもね。サトコは絶対にまだ、堂々とした演技を見せてくれるはずです。」
スポーツを芸術に変えたレジェンド
ゴンチャレンコ監督はさらに、毎回、その演技を見るたびに激しい感情に揺さぶられる選手として、羽生結弦をあげた。
「羽生さんのプログラムは非常にエモーショナルです。しかも彼はこれをこの世のものとは思われないレベルで演じ、観る者を文字通り涅槃の境地に誘ってしまう。私は幸せなことにこのひときわ抜きんでた才能の持ち主を宮原知子の時と同様、ジュニアのスタートする13歳からずっと見つめてきました。初めて彼を目にした時の顔つき、コスチュームのディテールまで事細かに記憶に刻まれています。
リンクに立った羽生は当時はまだロングヘア―で、空色が次第に青へと移り変わるコスチュームを着ていました。彼は見事な3回転半を跳ぶと、美しく身体をしならせ、文句なしに完璧なビールマンスピンを回ったのです。(ビールマンスピンとは、フリーレッグを背後から伸ばして頭上に高く持ち上げ、そのブレードを両手でキャッチした回転。)
ゴンチャレンコ監督は羽生結弦はフィギュアの歴史に絶対に消されることのない跡を残したと断言している。監督、そして観客もこのスポーツの生きたレジェンドをこの目で見られるというのは稀有な幸せだと。羽生レベルの選手らはスポーツを真の芸術に変えている。そんな羽生選手と会える日ももうすぐ。NHK杯の後、いよいよグランプリシリーズのファイナルは伊トリノで行われる。