職人技を極めた人形アニメ:モスクワっ子がごんぎつねの世界に涙、八代健志監督作品上映

22日、モスクワにおける第53回日本映画祭(主催:国際交流基金、在ロシア日本国大使館、クールコネクションズ)の枠内で、人形をコマ撮りして作る「ストップモーションアニメ」を手がける八代健志監督の作品が上映された。満席の会場では、子どもも大人も一緒になって、「ノーマン・ザ・スノーマン」シリーズや、童話「ごんぎつね」をモチーフにした最新作「ごん -GON,THE LITTLE FOX-」など、4本の作品を鑑賞。美しい映像と優しいストーリーに、場内が感動に包まれた。「ごん 」の悲しいラストシーンは、原作を知らないロシア人にも衝撃を与えた。
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動かない被写体に命を吹き込むストップモーションアニメの制作は、気の遠くなるような作業だ。「ごん」の場合は30分間のアニメを作るのに、2年半の歳月が費やされている。八代監督は、こだわりの木の人形について「現物の人形として美しいかどうかが大事。僕は、曲がる素材よりも、木の方が好みなんです」と話す。モスクワには、「ごん 」の第3の登場人物、可助の人形の実物を持参し、会場で披露した。

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上映後には八代監督と及川雅昭プロデューサーを囲み、質疑応答が行なわれた。会場からは「どうしてCGではなくて人形アニメを作ろうと思ったのか」「木の人形の目はどうやって動かしているのか」「自分を登場人物にたとえると誰か」「『ごん』のエンディングを変えようという気持ちはなかったか」など、多くの質問が飛び交った。

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人形を作り、撮影するという「絵作り」の部分を担当しているのは、10人にも満たないメンバーだ。制作陣は、なぜコンピューターを使わないのか、という問いに、常に晒されている。

八代監督「客観的には、CGやデジタルを駆使すれば、良いものができるはずです。しかし作る人間が『その人』である以上、その人がもっているやり方を生かして使っていかないと、本当に良いものにはならないと思うんです。世の中の生物多様性と似ていますが、一種類であってはいけない。メジャーなもの以外も存在していい、ゼロにならなくていいと思っています。」

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人形アニメならではの制作秘話も飛び出した。「雪のシーンは、どうやって撮影しているのか?」という質問に対し、及川プロデューサーが「あれは塩です。結晶が透明でキラキラしているし、安いから買うのは良いんですが、人形にくっついてしまって大変だし、捨てるときは産業廃棄物になるので、処分するのが大変」と笑いを誘う場面もあった。

来場者との対話を終えた八代監督は、「ロシアの人は、作り手側の芸術性を理解して、それを受け取ってくれているという感覚を覚えた」と話している。

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上映後にはサイン会が行われた。列に並んだ出版社勤務の男性、マキシムさんは「日本で人形アニメが制作されているとは思ってもみませんでした。僕はアニメファンですが、短編アニメはそもそも存在を見つけるのが難しいし、翻訳もされていないことが多いです。八代監督には、世界中の、普通の映画館で上映できるような完全版というか、長編アニメを作ってほしいです」と話してくれた。

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ロシア初訪問の八代監督は、ロシア正教の教会建築や美術に感銘を受けたという。また、「チェブラーシカ」や「霧の中のハリネズミ」で有名なロシアの老舗アニメ製作会社「ソユーズムリトフィルム」を見学。同社のストップモーションアニメ部門を訪問し、ものづくりに関わる者同士、話に花が咲いた。ソユーズムリトフィルムは商業作品以外に、特別な予算措置をし、採算を考慮しないアニメ作品を毎年一定数作るようにしている。八代監督はそういった試みについて、「多様性を保つために重要なこと」と指摘する。

​プラネタリウム版「ごん」は、ごんぎつねの作者・新美南吉のふるさと愛知県半田市の半田空の科学館で公開中だ。今回、モスクワで上映された劇場版「ごん -GON,THE LITTLE FOX-」は、アップリンク吉祥寺で、来年2月28日から3月5日まで上映される。八代監督は「やっと、多くの方に劇場で見てもらえるスタートです。メジャーなアニメとは少し違いますが、アート性と、映画として楽しめるエンターテイメント性が、自分としてはとてもバランスよくできた作品だと思います」と話している。

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