動かない被写体に命を吹き込むストップモーションアニメの制作は、気の遠くなるような作業だ。「ごん」の場合は30分間のアニメを作るのに、2年半の歳月が費やされている。八代監督は、こだわりの木の人形について「現物の人形として美しいかどうかが大事。僕は、曲がる素材よりも、木の方が好みなんです」と話す。モスクワには、「ごん 」の第3の登場人物、可助の人形の実物を持参し、会場で披露した。
上映後には八代監督と及川雅昭プロデューサーを囲み、質疑応答が行なわれた。会場からは「どうしてCGではなくて人形アニメを作ろうと思ったのか」「木の人形の目はどうやって動かしているのか」「自分を登場人物にたとえると誰か」「『ごん』のエンディングを変えようという気持ちはなかったか」など、多くの質問が飛び交った。
八代監督「客観的には、CGやデジタルを駆使すれば、良いものができるはずです。しかし作る人間が『その人』である以上、その人がもっているやり方を生かして使っていかないと、本当に良いものにはならないと思うんです。世の中の生物多様性と似ていますが、一種類であってはいけない。メジャーなもの以外も存在していい、ゼロにならなくていいと思っています。」
来場者との対話を終えた八代監督は、「ロシアの人は、作り手側の芸術性を理解して、それを受け取ってくれているという感覚を覚えた」と話している。
上映後にはサイン会が行われた。列に並んだ出版社勤務の男性、マキシムさんは「日本で人形アニメが制作されているとは思ってもみませんでした。僕はアニメファンですが、短編アニメはそもそも存在を見つけるのが難しいし、翻訳もされていないことが多いです。八代監督には、世界中の、普通の映画館で上映できるような完全版というか、長編アニメを作ってほしいです」と話してくれた。
プラネタリウム版「ごん」は、ごんぎつねの作者・新美南吉のふるさと愛知県半田市の半田空の科学館で公開中だ。今回、モスクワで上映された劇場版「ごん -GON,THE LITTLE FOX-」は、アップリンク吉祥寺で、来年2月28日から3月5日まで上映される。八代監督は「やっと、多くの方に劇場で見てもらえるスタートです。メジャーなアニメとは少し違いますが、アート性と、映画として楽しめるエンターテイメント性が、自分としてはとてもバランスよくできた作品だと思います」と話している。