南ドイツ新聞の説明するこの理論とは、人口の中でもより健康で丈夫な層の中でまず最大限の人数が感染した後、いわゆる「防御壁」が形成される。高齢者、弱者はこの壁が出来上がるまで、隔離状態になければならない。
集団免疫のコンセプトは英国発。これを強く推進したのは英政府のパトリック・ウォレンス政府科学補佐官。ジョンソン首相も当初は支持を示したが広範な批判を浴び、この考えを遠のけた。
マルク・ルッテ首相の説を熱心に支持しているのは国民公衆保健環境問題研究所の主任ウイルス学者、ヤアプ・ヴァン・デッセリ氏。同氏は「理論的には、我々がほとんど問題を抱えていない市民の中でウイルスを拡散させ、これを統制下におこうというものだ」とテレビ出演で語っている。
微生物学者のロエル・コウチニュ氏はイタリアと同じ状況になる恐れがあると指摘している。集団免疫が形成されるには少なくとも人口の60%が感染しないといけない。ところが免疫学者らの試算ではオランダで新型コロナウイルス感染による死者は4万人から8万人になるとされている。
他の党からもルッテ首相の策を褒める声が挙げられている中、マスコミは疑わしいほどの沈黙を保っており、深刻な批判は右派の政治家からしか聞こえてこない。政治家のテリー・バウデット氏はツィッターで「我々は集団免疫というとんでもないアイデアを今こそ拒否すべきだ。これにより感染者、死者の数はますます拡大してしまう」と悲痛な声を上げている。
こうした中、18日、ルッテ首相は議会で「集団免疫は政府の目的では決してない」とする声明を出さざるを得なくなった。だが長期的視点ではこれは成果となりうる。南ドイツ新聞は市民の感染の目的について、集団感染を分けて行うことで、患者を治療を施せる数にとどめておき、高齢者、弱者が守ろうということであろうと結論づけている。