米国では「全てが統制下にある」
米国人は世界的な疫病の流行との戦いで常に先頭に立っていた。2002年のSARS、2015年のジカ熱、2018年のエボラ出血熱の流行は、米国の外で起きており、この国の安全を脅かすものではなかった。しかし今、脅威は国内から生じており、米国はどう対処すればいいのかわからなくなっている。
その1週間後、3月24日、トランプ大統領は米国の経済活動を近いうちに再開させると発言し、「感染の問題よりも治療の方が悪くなってはいけない」と強調した。
対応遅れの代償
米国人専門家からは、米国政府は6週間という時間をふいにしてしまったという声が上げられている。米国はこの間に、検査キット、マスク、医療用防護服、人工呼吸器をストックすることが可能だったというのだ。
こうした段になっても米当局は医療機器不足の危機を認識していない。感染例が爆発的に増えたニューヨーク州の知事が、この地域には少なくとも3万人分の人工呼吸器が必要だと発言したが、トランプ大統領は深く受け止めてはいなかった。
また2018年、トランプ政権は、オバマ前大統領が大統領府付属部署として設置した「パンデミックチーム」と呼ばれる政府のグローバル・ヘルス・バイオセキュリティ安全保障部門を廃止してしまっていた。トランプ大統領は、必要な際には再びチームを組めばいいと高をくくっていた。
医療現場は「自助努力」
米国のもう一つのマイナス要因は、社会の分裂。これは政治だけではなく、医療の領域でも起きている。米国の病院の大半は私立病院で、国が薬や医療費の面で援助するわけではない。チェーン経営の大病院もあれば、地域の小さな病院もある。しかし全般的に見て、病床や設備、防護服が不足している。医療機関は「自力でなんとかする」という状態に陥り、不足分は自助努力で補おうとしている。
また、業者による医療機器の供給が間に合わないほど小規模な病院もある。そういった病院は医療品不足のため閉院する。
万人のものではない医療
米国のもう一つの医療の脆弱性は、米国で常に政治的な議論を呼び起こしている医療保険制度。米国人は3つのカテゴリーに分けられるという。1つ目のグループは、保険に加入している富裕層。このグループの保険価格は、州、その州の法律、勤務地、収入など多くの要素によって変わる。これらの米国人は個人保険に月平均440ドル、家族保険に1168ドルを支払う。加入者が通院、入院した場合、医療費は個人負担となり、退院後、その医療費の80%に相当する給付金を受け取る。
二つ目のグルーブは、低所得者。貧困ライン以下で生活している人は、公的医療保険制度「メディケイト」に加入している。これは多くの米国人に無料または低コストの医療を提供する制度で、収入、家族の人数、居住地で加入内容が変わる。
米国の医療保険制度改革、2010年に成立したいわゆるオバマケアはこのグループの人たちのためだった。しかし、トランプ氏は大統領就任後の2017年、この保険制度の廃止に着手した。そして翌2018年12月、テキサス州フォートワース連邦裁判所はこの改革は違憲と判断した。
また、米国には65歳以上で公的医療保険制度「メディケア」に加入し、支払い能力のある国民がいる。月々の支払の250ドルは年金から天引きされる。ただし、この保険は全ての医療費をカバーするわけではなく、負担してくれるのはその一部のみ。そのため米政府はベーシックな保険にすら加入できない何百万人もの国民にどう対応すべきか、手をこまねいている。