危機管理問題に詳しい日本マネジメント総合研究所合同会社の戸村智憲(とむら・とものり)理事長は、「宣言を出すのが遅かった。命を守る観点からは4月1日には出すべきだった」と指摘しながらも、比較的妥当な対応だったと評価している。
戸村氏「厚生労働省の発表データからは、既に東京・大阪・神奈川など大都市で、感染症対応に必要な病床数を超える受け入れ感染症患者が出ていると見受けられ、地域限定的に医療崩壊が起こっているか、他の病床を感染症対応に割り振って医療崩壊を食い止めようとしている状態です。人工呼吸器や人工心肺不足が懸念される前に、先手を打って対応しておくべきでした。」
戸村氏「東京や大阪などでは、無症状・軽症で、命に別状はないものの他者に感染させる可能性がある方々を、外出自粛で大ダメージを受けている一般ホテルに隔離する対応が進められています。これも、緊急事態宣言が出た後であれば、民間のホテル運営企業により強く協力を得やすく、最悪の場合は、ホテルやコンサートホールなどを隔離施設として活用するか、土地等を収用して臨時の仮設隔離施設を建設・活用することで、医療崩壊を防ぎ、感染者が重症化しても救える可能性を大幅に高めることができるものと見込まれます。自然災害の被災が多い日本では、仮設住宅の建設はこれまで何度も経験してきました。緊急事態宣言で法的根拠が整えば、社会的混乱や風紀の乱れもないままに、国民・住民が整然と対応して効果を上げやすくなるでしょう。」
しかし緊急事態宣言下であっても、日本では欧米のような厳密なロックダウン(都市封鎖)は行われず、安倍首相の弁によれば、散歩やジョギングも問題ない。外出自粛の「要請」も、施設の使用制限やイベント中止の「指示」も、お願いベースである。
こうした制限の緩さを、ある在京ロシアメディアの記者は「おそらく世界で最も鋭さの足りない緊急事態だ」と評している。日本人の間でも、今までと何が違うのか?と緊急事態宣言の必要性を疑問視する声もある。しかし戸村氏は、海外から見れば「生ぬるい対応」かもしれないが、日本社会の性質や、有事に比較的冷静・温和に対応できる国民性を考慮すれば、今回の緊急事態宣言の効果は十分にあると話す。
しかし、日本は自然災害大国として、市民・住民がお互いに助け合うのが当然であるという社会です。政府・国・自治体の対応は、災害時でも目に余る不手際が多いですが、そのような環境で鍛えられた(あるいは苦しめられた)国民・住民が、助け合う「絆」が育まれて、民間の組織力で危機を乗り切ってきた、と言えるでしょう。国民の大半は自ら望んで自粛へ向かっている状況と見受けられます。」
日本の緊急事態宣言が今後どの程度感染拡大防止につながるのか、世界が注目している。
新型コロナウイルスを巡っては、これまでも、各国のトップが直接国民に語りかけることで、危機感を高めて感染拡大を抑えようとしてきた。ロシアのプーチン大統領は、3月25日に続き、4月2日にも国民に向けて演説を行い、ロシアは4月30日まで有給の非労働期間となった。ただしロシアの場合、厳しい外出制限がなされ、国民の危機意識も高まっているが、それを無視するように感染拡大がハイペースで進んでおり、4月6日には1154人の新しい感染者が確認され、ロシア全体での感染者数は7日時点で7497人となっている。