ロシア科学アカデミー・エンゲルガルト名称分子生物研究所の主任研究員、生物医学用高精度編集・遺伝子技術センター長のドミートリィ・クプラシュ氏によると、免疫パスポートの有効性と信頼性は、コロナウイルスの治癒者を多数、長期にわたり観察して証明されなければならないと語る。「抗体検査だけでは不十分。体内の抗体量が少なければ、感染症に対する防御力は極めて低いままであり、再感染のリスクを排除することはできない。それでもモスクワでは大規模な抗体スクリーニングが始まった。研究者は、具体的にどの抗体検査が信頼性ある保証とみなせるか、理解に近づくための試みをやめようとしないからだ。他の国でも同様の事業を行っている。」
分子生物学、遺伝子学、免疫学、バイオテクノロジーの専門家で、生物博士、ロシア科学アカデミー「バイオテクノロジー」部門準会員のセルゲイ・ネドスパソフ教授は、近い将来に免疫パスポートが適用されるかについては懐疑的な態度を示している。「長期にわたる抗体検査は、その人がウイルスに対し防御力があることを確実に証明するために必要不可欠。大事なのは、その人が周辺を感染させる『生きたウイルス』をもう拡散しないということ。しかし確認データがなければ『コロナパスポート』は混乱を招く恐れがある。研究者が多くの疑問を持っている免疫パスポートをよりどころに、観光のために人々の健康と安全を犠牲にする人はいないと思う。」
クプラシュ氏は、それでも免疫パスポートを導入する国があれば、いずれにしてもパスポートの有効期限は疑問として残ると語る。「免疫は弱くなるという特性を持っている。ここで唯一の現実的な案は、免疫パスポートの有効期間を短期にし、数カ月の単位にすること。旅行者にはこの場合、ビザや保険に加えてもう一つ書類が増える。ここには非現実的なことは何もないが、免疫パスポートの作成と効果は、まずウイルスの特性に左右される。例えばインフルエンザにはこのような『健康証明書』は意味を持たない。インフルエンザウイルスは毎年大きく変異し、新しく形を変える。コロナウイルスの特性がどれほど安定しているかは、これから究明しなくてはならない研究課題だ。」
免疫パスポートを導入するにあたり、もう一つの重要な問題は国際的な信頼だ。受入側は入国する旅行者の抗体検査が一定の基準にもとづいて正しく行われ、その結果であると確信できなければならない。
コロナウイルスの抗体保有者には、未感染者よりも優先的に出国権利を与える案も出てきており、一部専門家はこれについても見解を述べている。専門家は、もしこの案が実現すれば自由に移動したいためにコロナウイルスに早く罹りたいと思う人が増えるのではないかとの危惧を抱いている。またクプラシュ氏は、ワクチン開発でさえもこの問題を完全に解決することは不可能だと考えている。「自然に感染した場合、再感染に対して強い防御力を持つ。一方でワクチンは、それに比べれば得られる免疫は弱いのが一般的だ。」
世界保健機関(WHO)は、旅行者を守る手段としての「免疫パスポート」導入に対して性急に事を進めないように警告している。WHO本部は、世界各国の政府も国民も確かに、正常な生活を取り戻すための方法として抗体検査に期待していると指摘した。しかし残念ながら現時点では「新型コロナ感染症から回復した人が再感染しないとは証明されていない」。またWHO専門家は、偽検査により数多くの人命が危険に晒されるとの懸念を表している。