サンクトペテルブルクの芸術家、写真の町東川賞を受賞「必ず日本を訪れたい」

今月、第36回「写真の町東川賞」の受賞者が発表された。今年の海外作家賞の対象国であるロシアからは、26名がノミネートされた。賞に輝いたのは、芸術の都サンクトペテルブルク在住のグレゴリー・マイオフィスさん。2014年に出版した写真集『Proverbs』と、2018年から取り組んでいる連作「Mixed Reality」シリーズが高い評価を受けた。審査委員はマイオフィスさんの作品について「フィクションと芸術の間を、アイロニカルかつウェットに富んだまなざしで捉えている」と評している。
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ロシアから初の受賞に喜び

写真の町東川賞の海外作家賞は、毎年審査対象国が変わる。ロシアが審査対象になったのは今年が初めてだったため、マイオフィスさんはロシアで東川賞を受賞した初の写真家となった。2005年から2015年にかけて撮りためたシリーズ「Proverbs」は、これまでに世界中の美術館や博物館で展示され、モスクワのプーシキン美術館をはじめ、ミュージアムの所有コレクションにもなっている。

マイオフィスさんの作品の中でロシアらしさを想起させるのは、バレリーナと熊をモチーフにした「Taste for Russian Ballet」(2008年)だ。マイオフィスさんは、「最新シリーズだけでなく、古い作品も賞の評価の対象になったことは重要なことだと考えています。特に「Taste for Russian Ballet」は、ネットで拡散し、言わば私の手を離れ、私とは別の人生を生きています」と話す。

サンクトペテルブルクの芸術家、写真の町東川賞を受賞「必ず日本を訪れたい」

マイオフィスさんの仕事は、いくつものステップにわかれている。まずは頭の中で、どんな光景を撮影したいか、そのためにどんなセットを作るか考える。それらを用意して、写真を撮り、独自の方法でプリントする。写真家としては風変わりな形の創作だと言える。なので、彼のことは写真家と限定するよりも、芸術家と言ったほうがふさわしいだろう。

最新の連作「Mixed Reality」の個展は、昨年末、サンクトペテルブルクの美術館で開催された。このシリーズに登場する人々は、ヘッドセットを装着している。しかしこれは決して、バーチャルな世界だけを描いたものではなく、タイトルの通りリアルとバーチャルの「ミックス」だ。これはロシアの生活だけではなく、万国に共通する、より普遍的な光景を切り取ったものだと言える。歴史的に常に西洋絵画や彫刻のモチーフとなってきた聖母子も、マイオフィスさんの手にかかればすっかり現代風になり、ファンの間では「デジタル・マドンナ」と呼ばれている。

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日本の文化に触れたロサンゼルス

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マイオフィスさんはかつて、アメリカに住んでおり、今でも彼にとってアメリカは身近な国だ。マイオフィスさんがよく訪れるロサンゼルスの郡立美術館(LACMA)には日本パビリオンがあり、そこで日本の芸術に触れることができた。同じくロサンゼルスには日系アメリカ人の歴史がわかる博物館もあり、そこへ行くのも大好きだという。

そしてマイオフィスさんは、大相撲の大ファンでもある。ロシアでもNHKの相撲放送が見られるので、それを欠かさずチェックしている。最近は、新型コロナ予防のため、無観客で行われた大相撲春場所を観戦した。マイオフィスさんは「変な感じでしたね。相撲はお客さんがいなくてもできますけど、展覧会はお客さんがいないとできませんからね…」と話す。ロシアでも、今年に予定されていた様々な展覧会が、軒並み延期になってしまっているのだ。


新型コロナの影響

「Mixed Reality」の中に、ヘッドセットをつけた年金生活者の夫婦を描いた「Retired Couple in Survival Mode」という作品がある。サンクトペテルブルクの展覧会では大いに人気を集めた。年金生活者はその日の暮らしに精一杯、つまり「サバイバルモード」で生きているという点に着目した風刺だが、世の中の変化に伴い、この作品はそれ以上の意味を持ち始めた。新型コロナ蔓延下の自粛生活は、年金生活者だけではなく、全ての人にとってサバイバルモードをもたらした。このテーマはよりリアルに、よりアクチュアルになったのだ。

サンクトペテルブルクの芸術家、写真の町東川賞を受賞「必ず日本を訪れたい」

写真の町東川賞受賞にともない、マイオフィスさんの展覧会が今夏に東川町で開催される予定だったが、延期となった。新型コロナによる混乱が終息すれば「必ず東川町を訪れます。日本の皆様に作品を紹介できる機会を頂けるのは、ありがたいです」と話すマイオフィスさん。来日の暁には、現代日本を感じるとともに、ぜひ生で相撲を観戦し てほしいものだ。


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