山本さんは中学卒業後、単身モスクワに留学。モスクワ国立舞踊アカデミー(ボリショイバレエ学校)で学び、卒業後は熊川哲也氏が主宰するKバレエカンパニーに入団した。ロシアと日本のバレエ界を知る山本さんが伝えたいのは、バレエは技術を競うパフォーマンスではなく、あくまでも総合芸術であるということだ。
山本さん「私たちの頃に比べると、今の子どもたちは情報に恵まれています。でも皆の関心は、脚をどれだけ高く上げられるか、回転が何回できるかなど、技術的な面だけに偏ってしまいがちです。日本ではバレエコンクールが盛んですが、自分が踊るヴァリエーション(※ソロの踊り)が、どの作品の、どんな場面で出てくる踊りなのか知らない、という子もいます。作品に対する背景知識の有無は踊りにも影響を与えるので、そういった知識を取り入れる機会を作りたいと思いました。」
日本の子どもたち、モスクワ発の歴史講座でバレエの魅力を再発見
© 写真 : Moeha Yamamoto
初回の講座に参加したのは小中学生およそ15人。筆者もゲストとして視聴させてもらった。話はイタリア、フランス、ロシアの歴史や貴族文化を中心に、古典バレエから現代バレエにまで及んだ。子どもたちには少し難しいと思われた内容だったが、集中力を途切らせることなく、メモを取りながら真剣に聞いていた。
趣味としてバレエを習う子もいれば、本格的にバレエの道に進むか、悩んでいる子もいる。そんな子たちにとっては、元バレリーナの体験談は貴重なものだ。終了後には「ロシア語はどうやって勉強したの」「ロシアで不安だったことは?」「上手にならない時どうすればいい?」などの質問が飛び、皆が山本さんのロシア生活に興味津々の様子だった。怪我で手術し、車椅子生活をしたこともある山本さんは、決して平坦とは言えなかった留学生活を振り返りつつ、子どもたちにエールを送った。
バレエ人気の高まりを背景に、2022〜23年に日本での開催を予定している「ボリショイ劇場芸術展」(主催:日経新聞社)の準備に取り組む山本さん。今後は講座を更に発展させ、年齢別やテーマ別、対面でのレクチャーなど複数のシリーズを用意し、学ぶ人の多彩なニーズに応えていきたいと話している。
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