「大好きなのは〜納税者のお金〜」 ハム太郎はなぜタイの反政府デモのシンボルとなったのか

タイの首都バンコクで26日、反政府デモが行われ、日本のアニメ「とっとこハム太郎」の主人公、ハム太郎がシンボルとなった。ハム太郎はなぜタイの反政府デモのシンボルに選ばれたのか、また現在タイでは何が起こっているのかを通信社スプートニクがお伝えする。
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何が起こったのか?

タイのバンコクで若者らによる反政府デモが行われた。参加者らは「とっとこハム太郎」の主題歌の替え歌を歌いながら、民主記念塔の周辺を走り、「議会を解散せよ」「独裁者たちは去れ」などと替え歌を合唱した。

​参加者たちはさびの部分の「だ〜いすきなのは〜ひまわりの種〜」という歌詞を「だ〜いすきなのは〜納税者のお金〜」に置き換え、税金の無駄遣いをやめるよう政府に呼びかけた。

民主記念塔の周辺を走ることも比喩だった。参加者たちは滑車を走るハム太郎を自分たちにたとえた。ハム太郎のぬいぐるみを手に持っている参加者たちもいた。

デモの原因とハム太郎の「ウイルス的ポテンシャル」

The Free Youth(フリー・ユース)が主催する反政府デモは、3つの要求を掲げている。1つ目は、プラユット首相の辞任と国会の解散。2つ目は、軍によって書かれた憲法の改正。3つ目は、表現の自由を行使する活動家への嫌がらせの中止だ。また、新型コロナウイルスの流行による経済危機も、現政権に対する不満の原因となった。

東京で差別に反対の平和的デモ行進 スプートニクの現地取材
デモに参加した「Fah」と名乗る若い女性が英語圏のメディアに語ったところによると、ハム太郎がデモのシンボルに選ばれたのは、従来と異なる方法によるデモの実施と関係している。Fahさんは「大人は私たちがしていることを真剣なものとして受け取れないと考えるかもしれません。でも、これは今、新しい世代にとって(デモを実施するための)新しい方法なのです」と語った。

別のデモ参加者のジェシーさんも、ハム太郎はその「ウイルス的(急速に拡散する)ポテンシャル」によってシンボルとなったと指摘した。

ロシア高等経済学院人文科学部の教授で、政治学者および哲学者でもあるオレグ・マトヴェイチェフ氏は次のように語っている-

「先ずこれは、自分たちの活動に国際社会の関心を集める手段だ。もしハム太郎が使われなければ、世界のメディアはこのデモを大きく取り上げることはなかったが、ハム太郎を使用したことで関心と好奇心を呼び起こした。もちろん、このような形態の抗議運動はポピュリズム的で、あまり真剣に見えないかもしれないが、抗議運動の指導者たちの第1の課題は、できるだけ多くの支持者を引き付けることだ。」

筑波大学の外山文子准教授は、ハム太郎について次のように語っている-

「今回の歌の意図について、今回のデモを提唱した若い女性は、以下のような説明をしています。『私たち全員が檻の中のハムスターです。ある日、社会構造が檻を圧迫し、ほとんど壊れたので、ハムスターは私たちの自由のために走る必要があります。』『この歌は、オープニングソングなのでハム太郎を選んだ。 この曲は覚えやすく、一度だけ聞いても歌うことができます。』私自身がこの歌の歌詞を聞いたときの感想は、『ハムスター』はケージに入れられた『国民』でもあり、また『軍事政権の閣僚たち』でもあると思いました。もし軍事政権の閣僚たちも『ハムスター』であると解釈すれば、その上に大きなケージを持っている『上位の人』(=国王)がいることを暗喩しているようにも感じられます。」

このような形態の抗議はタイの特徴なのか、それとも新しい傾向なのか?

タイの人々は抗議を表明するそのクリエイティブなアプローチでずいぶん前から注目を集めている。特にタイで2014年に起こった軍事クーデターの後、政権に対する抗議で最も有名なシンボルとなったのは、3本指を掲げるサインだった。これは人気の映画『ハンガーゲーム』をまねたものだった。また、反政府ラップもタイの人々を世界に知らしめた。2018年にユーチューブで公開されたグループ「Rap Against Dictatorship(独裁に反対するラップ)」が歌う『プラテート・グー・ミー(俺の国にあるもの)』という曲のミュージックビデオは、現時点で8500万回以上再生されている。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にもかかわらず、タイの人々は自分たちの抗議を表明する方法を模索し続けた。そしてタイの若者たちは、ツイッターを使用して香港の抗議デモ参加者らと力を合わせるまでに至った。

マトヴェイチェフ氏は次のように指摘している-

「パンデミックの間、タイの抗議活動はフラッシュモブの形態に移行した。パンデミック時の制限が課せられた状況の中で、しばらくの間はTwitterが表現の自由のための主要なスペースとなったが、しばらくするとタイのユーザーたちはツイッターの安全性を疑い始め、高い機密性と相まって検閲の不在が保証されたツイッターに代わるSNS『Minds(マインズ)』に乗り換えた。したがって、若者の抗議の表現形態は(アジアだけでなく)常に非常に柔軟かつ機動的だが、今のところ、クリエイティブさに磨きをかけ、自分たちの要求に人々の関心を集めるという面でのみ効果的だ。」

この方法は機能するのだろうか?

この抗議の波は「youthquake」(youth=若者とearthquake=地震を組み合わせたもの)と呼ばれ、タイ、台湾、香港など、アジアの大学生などの若者の間で高まる政治活動を反映している。しかし、このような形態の抗議デモはどのくらい効果的なのだろうか?外山氏は次のように語っている-

「大きな社会構造を変えるのが難しいこともあり、為政者個人を批判する、あざけるというスタイルが以前からよく使われています。恐らく他のアジア諸国でもよく見られるのではないでしょうか。このようなスタイルが、政権批判として効果的か否かは分かりませんが、軍による暴力的介入を避けるためにも、可愛らしい歌を利用して、少しでも平和的に見せようとしているのだろうと思います。」

「大好きなのは〜納税者のお金〜」 ハム太郎はなぜタイの反政府デモのシンボルとなったのか

タイの政治情勢はずいぶん前から不安定な状態にあり、これまでさまざまな危機が起こっている。2014年に発生した一番最近の軍事クーデターは、タイで絶対王政が廃止された1932年以降、タイ軍によって12回以上繰り返されたクーデターの1つだ。

2019年3月、タイでは8年ぶりの下院総選挙が行われ、主要野党のタイ貢献党が過半数の議席を獲得した。一方、上院の250議席すべてが軍に属していたため、タイ貢献党はタイの次期指導者の選出には参加できなかった。その後、タイでは抗議デモが繰り返された。近年最も有名な抗議デモの1つは「反独裁ランニング」だ。この独裁に抗議するランニング イベントは2020年1月に開かれ、約1万人が参加した。

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