何が起こったのか?
タイのバンコクで若者らによる反政府デモが行われた。参加者らは「とっとこハム太郎」の主題歌の替え歌を歌いながら、民主記念塔の周辺を走り、「議会を解散せよ」「独裁者たちは去れ」などと替え歌を合唱した。
参加者たちはさびの部分の「だ〜いすきなのは〜ひまわりの種〜」という歌詞を「だ〜いすきなのは〜納税者のお金〜」に置き換え、税金の無駄遣いをやめるよう政府に呼びかけた。
民主記念塔の周辺を走ることも比喩だった。参加者たちは滑車を走るハム太郎を自分たちにたとえた。ハム太郎のぬいぐるみを手に持っている参加者たちもいた。
「先ずこれは、自分たちの活動に国際社会の関心を集める手段だ。もしハム太郎が使われなければ、世界のメディアはこのデモを大きく取り上げることはなかったが、ハム太郎を使用したことで関心と好奇心を呼び起こした。もちろん、このような形態の抗議運動はポピュリズム的で、あまり真剣に見えないかもしれないが、抗議運動の指導者たちの第1の課題は、できるだけ多くの支持者を引き付けることだ。」
筑波大学の外山文子准教授は、ハム太郎について次のように語っている-
「今回の歌の意図について、今回のデモを提唱した若い女性は、以下のような説明をしています。『私たち全員が檻の中のハムスターです。ある日、社会構造が檻を圧迫し、ほとんど壊れたので、ハムスターは私たちの自由のために走る必要があります。』『この歌は、オープニングソングなのでハム太郎を選んだ。 この曲は覚えやすく、一度だけ聞いても歌うことができます。』私自身がこの歌の歌詞を聞いたときの感想は、『ハムスター』はケージに入れられた『国民』でもあり、また『軍事政権の閣僚たち』でもあると思いました。もし軍事政権の閣僚たちも『ハムスター』であると解釈すれば、その上に大きなケージを持っている『上位の人』(=国王)がいることを暗喩しているようにも感じられます。」
このような形態の抗議はタイの特徴なのか、それとも新しい傾向なのか?
タイの人々は抗議を表明するそのクリエイティブなアプローチでずいぶん前から注目を集めている。特にタイで2014年に起こった軍事クーデターの後、政権に対する抗議で最も有名なシンボルとなったのは、3本指を掲げるサインだった。これは人気の映画『ハンガーゲーム』をまねたものだった。また、反政府ラップもタイの人々を世界に知らしめた。2018年にユーチューブで公開されたグループ「Rap Against Dictatorship(独裁に反対するラップ)」が歌う『プラテート・グー・ミー(俺の国にあるもの)』という曲のミュージックビデオは、現時点で8500万回以上再生されている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にもかかわらず、タイの人々は自分たちの抗議を表明する方法を模索し続けた。そしてタイの若者たちは、ツイッターを使用して香港の抗議デモ参加者らと力を合わせるまでに至った。
マトヴェイチェフ氏は次のように指摘している-
「パンデミックの間、タイの抗議活動はフラッシュモブの形態に移行した。パンデミック時の制限が課せられた状況の中で、しばらくの間はTwitterが表現の自由のための主要なスペースとなったが、しばらくするとタイのユーザーたちはツイッターの安全性を疑い始め、高い機密性と相まって検閲の不在が保証されたツイッターに代わるSNS『Minds(マインズ)』に乗り換えた。したがって、若者の抗議の表現形態は(アジアだけでなく)常に非常に柔軟かつ機動的だが、今のところ、クリエイティブさに磨きをかけ、自分たちの要求に人々の関心を集めるという面でのみ効果的だ。」
この方法は機能するのだろうか?
この抗議の波は「youthquake」(youth=若者とearthquake=地震を組み合わせたもの)と呼ばれ、タイ、台湾、香港など、アジアの大学生などの若者の間で高まる政治活動を反映している。しかし、このような形態の抗議デモはどのくらい効果的なのだろうか?外山氏は次のように語っている-
「大きな社会構造を変えるのが難しいこともあり、為政者個人を批判する、あざけるというスタイルが以前からよく使われています。恐らく他のアジア諸国でもよく見られるのではないでしょうか。このようなスタイルが、政権批判として効果的か否かは分かりませんが、軍による暴力的介入を避けるためにも、可愛らしい歌を利用して、少しでも平和的に見せようとしているのだろうと思います。」
タイの政治情勢はずいぶん前から不安定な状態にあり、これまでさまざまな危機が起こっている。2014年に発生した一番最近の軍事クーデターは、タイで絶対王政が廃止された1932年以降、タイ軍によって12回以上繰り返されたクーデターの1つだ。
2019年3月、タイでは8年ぶりの下院総選挙が行われ、主要野党のタイ貢献党が過半数の議席を獲得した。一方、上院の250議席すべてが軍に属していたため、タイ貢献党はタイの次期指導者の選出には参加できなかった。その後、タイでは抗議デモが繰り返された。近年最も有名な抗議デモの1つは「反独裁ランニング」だ。この独裁に抗議するランニング イベントは2020年1月に開かれ、約1万人が参加した。