政治学者でロシア連邦政府付属金融大学政治学部の教授を務めるゲヴォルグ・ミルザヤン氏は、感染直後はZoomを使って遠隔で職務を続けたものの後に重症化し病院に収容された英国のボリス・ジョンソン首相を例に挙げ、今後どうなるかは多くの点でトランプ大統領の容体次第であるとの考えを示している。そして実際、大統領にとって、これは大統領選を左右する重要な意味を持つ可能性があると指摘する。
「トランプ大統領は有権者と対話し、交流を図るという方法によって、自身のカリスマ性を大いに利用しています。しかし、コロナウイルス感染により、主にオンラインで有権者に訴えかけているバイデン候補に差をつける大きな手段を失うことになります。一方でトランプ大統領は有権者に対し、“どうかわたしを見て欲しい。バイデン氏と異なり、人々と生の交流をする大統領であり、今、一般の市民たちとともに苦しんでいるのだ”と語りかけ、今の状況をうまく利用する可能性があります。さらに、今回のことで、トランプ大統領はエリート層の億万長者で、市民の生活や悩みとはかけ離れた高層マンションに住んでいるという民主党の言い分を跳ね除けることができる可能性もあります。多くはトランプ大統領とバイデン候補のPRチームがどのようにこの状況を選挙戦で利用するかにかかっています」。
いずれにせよ、コロナウイルスへの感染を伝えるトランプ大統領のツイートにはすでに記録的な数の「いいね」が付いている。
一方、欧州国際複合研究センターのドミトリー・ススロフ副所長は、トランプ大統領陣営の広報がいかに努力しようと、トランプ氏がコロナウイルスに感染したという事実は、大統領選にもっぱら否定的な影響を及ぼすとの見方を示す。「選挙前の集会は、トランプ陣営にとってきわめて重要なものでした。トランプ大統領はスタジアムに多くの支持者を集め、そのカリスマ性で群衆を沸かせました。しかし、今回の感染により、大統領は11月3日の投票日まで、有権者に直接会う形での活動はできなくなります。トランプ大統領にとって、共和党と民主党の勢力が拮抗する激選区でバイデン候補に追いつく別の方法は、なんとかバイデン候補の不利な立場に立たせ、威信を失墜させることができたテレビ討論会でした」。
さらにススロフ氏は、コロナウイルスに感染する前のトランプ大統領の当選の確率は50%以下であったが、現在その確率はゼロに近くなったと指摘する。そしてこのことは、トランプ氏が回復するか否かに関わらず、大統領選に深刻な「政治的困難」をもたらすものとなると見ている。とにかく、大統領選挙の行方はまだまだ分からない状況となっている。