モスクワ国際映画祭では伝統的に日本映画が高く評価されているが、今年は偶然にも、どちらも新人監督の作品が選ばれた。「人数の町」は日本で9月4日に公開されたばかり。「椿の庭」は日本では来年4月の公開なので、モスクワで一足早く見ることができた。
ロシアのネット新聞「ガゼータ・ル」の映画批評家パーヴェル・ヴォロンコ氏は、注目すべき2本のうち1本に「人数の町」を挙げ、「ラストに近づくほど魅力的なスリラーになる。恐ろしい悪夢のような明日が、実は今日起こっている、と認める時が来た」と評した。
「椿の庭」は上田氏の初監督作品。広告をはじめ、様々なジャンルで写真家として活躍する上田氏は、長年にわたってこの作品の構想を練ってきた。思わずため息の出るような美しい映像、日本の自然の美がロシア人の心を捉えた。
モスクワ国際映画祭は、通常は春に開催しているが、新型コロナ拡大に伴い、開催するかどうか自体、難しい決断だった。オフラインでの開催を決定してから、モスクワにおける感染状況が悪化してしまったため、映画館でクラスターが起きないように細心の注意が払われ、上映は厳戒態勢で行なわれた。
モスクワ在住の日本人俳優で映画監督の木下順介さんも、出演作「ロビンゾン」の舞台挨拶で映画祭に参加。木下さんは、現在開催中のクラスノゴルスク国際スポーツドキュメンタリー映画祭の審査員も務めている。
コロナ騒動で、外国在住のゲストはほとんど参加できなかった。例えばコンペ部門に選ばれたイスラエル映画の監督は、イスラエルとイギリスの2重国籍者だった。イスラエル人としてならロシアのビザは不要だったが、イスラエル―ロシア間には現段階で直行便が飛んでいないため、ロンドンを経由し、イギリス人としてロシアビザを申請することにした。しかしロンドンで2週間の隔離期間が必要だったため、結局映画祭に間に合わなかった。
モスクワ映画祭のオーガナイザーの一人で、ロシア映画研究家・批評家連盟会長のキリル・ラズロゴフ氏は、今回はとにかく、映画館で映画祭ができただけでも大きな達成だと話している。来年は、いつものように活気のある映画祭が開催できることを祈るばかりだ。