130人の研究者が反対する「大阪都構想」―その批判に根拠はあるのか?

11月1日に実施される大都市制度改革の住民投票を前に、研究者や政党の代表らは大阪維新の会が掲げる「大阪都構想」について、まったく異なる見解を述べている。賛成派は誰で、反対派は誰なのか?賛否両論のこの問題について、スプートニクが取材した。
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「大阪都構想」とは何なのか?2015年の住民投票から何が変わったのか?

大都市制度改革とは大阪市を廃止し、その代わりに4つの特別区を創設するというものである。現在、大阪には24の区があるが、東京の区とは異なり、各区の予算編成や区長の選出、独自の政策の実施といった権限を持っていない。しかし4つの特別区(「淀川」「北」「中央」「天王寺」)に再編されれば、それぞれが中核市と同等となり、保育所の設置認可などができるようになる。

現在、220万人の人口を持つ大阪市の運営は大阪府と大阪市という2つの大きな官庁が行なっているが、「大阪都構想」では、この大規模な任務の一部が新たに編成される4つの特別区に委譲されることになる。府は観光、インフラ整備や成長戦略などのより幅広い問題を管理し、特別区は福祉や教育など身近な住民サービスを処理する。つまり、コンセプトの考案者は、こうすることにより、より早く、より効果的に問題を解決することができるようになり、また大阪市と大阪府の間の競い合いのために生じる住民税の無駄遣いをなくすことができると主張している。

また大阪維新の会の代表は、この構想のもっとも重要な目的は「二重行政の解消」であるとしている。

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2015年に実施された住民投票で、反対派が大勝した後、「大阪都構想」は大幅にその内容が改善された。とりわけ、特別区設置に必要な初期コストは当初の600億円から240億円にまで減少されている。各特別区の新庁舎を建設せずに、現在の市役所や区役所を活用するとの決定が下されたからである。

さらに大阪維新の会の改革実現に賛成を表明する公明党の提案により、当初の計画をさらにコンパクトなものにするのに成功した。

最近、住民投票を前に行われた世論調査で都構想に「賛成」と答えた人は(42%)で、「反対」(37%)を上回っていることが明らかになった。一方、回答者の半数以上がこの改革について、「説明不十分」であると答えている。しかし、十分な情報がないとしつつも大阪都構想に対して多くの支持者がいることは、吉村洋文知事(75%)と松井一郎市長(57%)に対する高い支持率で説明することができる。


反対派の立場

一方、研究者の間では、「大阪都構想」に対する評価はかなり差がある。改革と大阪維新の会の反対派としてもっとも有名な人物の一人が、京都大学の藤井聡教授である。

「大阪都構想の危険性」についての見解に対する支持を得るため、藤井氏は異なる大学、さまざまな分野の130人の研究者らの意見を集めた。さらに藤井氏は、改革の「危険性」についてほとんど伝えない日本のマスコミを批判し、「大阪市廃止」は、「日本の没落」を招きかねないとするきわめて過激な見解を示している。

「大阪都構想」反対派の主要な言い分は次のようなものである。

① いわゆる「二重行政」は実際、多くの場合ほとんど問題になっていないため、コロナ対策が優先されるこの時期に、納税者のお金を無駄に使う必要はない。

② 大規模な災害が発生した場合、特別区に災害対策本部が置かれていても、区域外に職員がいる状態では危機管理の問題が生じる。

③ 教育・医療・福祉などの住民サービスが削られ、市民から吸い上げられる財源はカジノや大型開発に投じられる。


懸念のための根拠はあるのか?

「スプートニク」からのこの問いに、都構想や大阪維新の会に詳しい神戸大の砂原庸介教授は次のように答えている。

砂原氏:「これらの懸念は、まったく根拠に欠けるものとは言えません。しかし、私の理解と比べると、改革で変更された制度がその後の地方政府の決定を拘束すると考える程度が強いです。それぞれの地方政府は有権者である市民・区民の影響を受けますし、彼らが選んだ地方議員を無視できません。

例えば、特別区で住民サービスを削ろうとすれば、区長は次の選挙で厳しい状況に置かれるでしょうし、個々の地方議員がそれに容易に賛成するとは思えません。現在の制度では大阪市で市長と議員が連合を組めば住民サービスを削ることができるのに対して、変更後の制度では4つの特別区で同様の連合が必要になり、これは逆に住民サービスを削ることを難しくすることもあると思います」。

しかし同時に砂原氏は、新たな大阪府が府と特別区の財源の配分を変えて、特別区のサービスを削ろうとするという目的がある可能性は否定できないとしている。

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砂原氏:「しかし、最終的に住民サービスに対して支出するのが特別区である以上、有権者の要望があれば、特別区はサービス水準を維持しようとするでしょう。もちろん、その代りに他の支出(道路などのインフラストラクチャー)が削られるかもしれませんが、それは特別区の判断に依存します。そもそも財源の配分を大きく変えると言っても、府の決定が特別区の決定に優越し、最終的な決定であるとする決まりはありませんし、選挙を考えると、大阪府の長が、特別区の長・議員のすべてから非難されるような決定を行うことはあまり現実的でないように思います」。

砂原氏は、この問題の根底にあるのは、特定の機能を割り当てられ、その機能を果たすことに特化している欧米の地方政府とは異なって、日本の地方政府が、基本的には管轄する地域の中のどのような問題にも介入することができるという特徴だと考えている。

砂原氏:「大阪府も大阪市も、ともに都市計画や地域の開発といった問題に対して働きかけを行うことができるので、それぞれ独自に、しかもお互いに競争しながら公共施設の建設のような決定を行います。これが『二重行政』とされるものの原因です。2010年代の大阪は、大阪維新の会によって統治されていましたので、府と市が独自に、互いに競争しながら意思決定をすることはなく、その意味で『二重行政』のようなことは少なくなっていました。しかし、大阪府と大阪市が異なる政党によって統治されれば『二重行政』の可能性はあります」。

砂原氏によれば、もし懸念することがあるとすれば、それは特別区が創設されることにより、「二重行政」の問題は逆により深刻なものになることだという。

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砂原氏:「大阪都構想は、そのような『二重行政』の可能性を排除するために実現される、ということですが、私の観点から言えば、特別区ができるとむしろ競争相手が増えることで『二重行政』のような競争状態が激しくなることを懸念しています。大阪維新の会の主張は、大阪府と特別区に対して、いわば『特定の機能を割り当て,その機能を果たすことに特化』させようとしていますが、日本の地方政府の特徴を考えると、私は大阪のみでそのような割り当てがうまくいくのは難しいと感じています。おそらく、大阪府も特別区も、管轄する地域の様々な問題に関与することで、『二重行政』のような問題が出ることになるだろう、ということです」。

一方、災害対策について砂原氏は、仮にそのような問題があるとしても、それは十分に解決可能なものだと述べ、たとえば防災担当の職員は区内に住まわせるような対応を行っていくことができるし、今でも現に大阪市外から通う職員も少なくないと指摘する。

砂原氏:「 以上の理由で、私は個人的に大阪都構想に疑問を持ってはいますが、他方で藤井聡氏のような反対派の主張する疑問を完全に共有するわけではありません。私の疑問について、それを乗り越える手法があるとすれば、大阪維新の会のような政党が、現在の大阪府・大阪市のように、大阪府と4つの特別区においても知事・4区長のポストを獲得し、と5つの議会で多数を有することです。しかし、それは想定される選挙制度のもとでは非常に困難だと考えています」。

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