菅首相の東南アジア諸国歴訪に先んじて東京では非公式的な「クワッド」(日米豪印の外相)の会談が行われていた。米国はこの同盟を、中国が地域に及ぼす影響の増大に対抗するものと捉えている。興味深いのは、菅氏がインドネシア入りする前の段階で、米国のために中国抑止の連合国を模索するというミッションはインドネシアでは「果たせない」だろうことをすでに悟っていたことだ。
ロシア科学アカデミー国際経済・国際関係研究所の日本経済政治グループのヴィタリー・シヴィトコ氏部長は、ASEAN諸国はそれぞれが中国と領土論争を抱えていても状況を悪化させないよう努力し、ベトナムと中国との対立からも距離を置こうとしているとの見方を示し、次のように語っている。
「日本の新首相もおそらくその努力を無視するつもりはないだろう。インドネシア、ベトナム歴訪を終えるにあたって、菅氏は『アジア版NATO』を目指しているわけではないと明言した。菅氏は中国との関係拡大については慎重にこれを支持する考えを示し、日本は建設的な対話を目指しているといいつつも、そうした際には南シナ海の緊張を平和的に解決する必要があると指摘した。菅氏は日本の外交パートナーらに対して、インド太平洋構想の中での非公式的な『クワッド』諸国と日本の協力は互いの軍事的義務や陣営の創設をうたったものではないことを分からせたかったのだと思う。」
ベトナム・ASEAN研究センターのグリゴリー・ロクシン上級研究員は、東南アジア諸国はこんにち米国と中国という2大国の対立の震源地に立たされており、2大国の国益の「人質」になったり、軍事紛争に巻き込まれる事態の回避に努めていることから、菅首相の歴訪では、経済関係の強化を全面に出そうとしたとの見方を示し、次のように語っている。
「インドネシアは東南アジア諸国の大国に数えられる。ベトナムは今年ASEANの議長国を務めており、いまや同地域の主導国の1つだ。菅首相の初の歴訪先がインドネシアとベトナムだったということは、これらの国々との関係に日本がどれほど重きをおいているかを物語っている。双方の国益は緊密に連携しており、それは戦略的パートナーシップの様相を呈している。」
日本は東南アジア諸国の統合プロセスをけん引する立場にあり、この観点から見て、日本のASEAN諸国との戦略的パートナーシップは本格的な一歩を踏み出した。