新START条約が延長 米国は譲歩か、逼迫した事情に迫られてか?

米国のバイデン新大統領が就任直後に下した決定の中に、新戦略兵器削減条約「新START」に関するものがある。
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2011年に調印されたこの条約は、2021年2月4日に失効の期限を迎えることになっていたが、トランプ前大統領は条約の延長を拒否していた。しかし、バイデン大統領は就任からわずか5日後の2021年1月26日に、ウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を実施し、両大統領は条約を延長することで合意した。プーチン大統領はその日のうちに条約を延長する法案を議会に提出し、法案は27日には承認され、29日には大統領が署名を行った。延長期限は2026年2月5日となっている。

ロシアに対する譲歩

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「新START」の延長は、トランプ政権との協議の中で追加的条件なしの延長を求めていたウラジーミル・プーチン大統領の要求を満たすものとなり、米国がロシアに譲歩した形となった。

トランプ前大統領は、中国をこの核軍縮条約に参加させるか、延長を行わないかという選択をロシアに対し迫っていた。もっともこの言い分には一理ある。「新START」は、配備済みの戦略核弾頭の総数を1550発に制限するものであるが、複数の情報に基づけば、中国は核軍事力を増強しており、中国の保有する核弾頭が1000発に達すれば、世界的な核紛争が起きた場合、米国はロシアか中国かのどちらかにしか報復攻撃できなくなり、敗北を余儀なくされるからである。

しかも中国がどのくらいの核弾頭および核兵器の運搬手段を保有しているのかについて、正確な情報はなく、中国を条約に参加させることで、この情報を開示させることができるからである。

ロシアにとってもこうした状況は総じて、有益である。中国は、ロシアに対して核攻撃を行う理由も特に持っておらず、事実上、米国を抑止する上でのロシアの同盟国だからだ。そこでバイデン大統領は追加的条件なしの延長という大きな譲歩を見せざるを得なくなったのである。

軍拡競争を維持できない米国

一方で、条約の延長は、バイデン大統領自身にとってもまた有益なものである。「新START」は核兵器を数量的および性能的に制限する効力を持つ最後の条約である。つまり、この条約が失効すれば、再び軍拡競争が始まることを意味する。

しかしまず、核兵器の開発には莫大な費用が必要である。米国議会の試算によれば、「新START」が失効すれば、核兵器の近代化に4,390億ドル(およそ46兆1,000億円)、また新型核兵器の維持に年間280億ドル(およそ2兆9,405億円)が必要となる。また全体として2020年から2050年までに、米国の核兵器の刷新に必要な金額は1兆2,000億ドル(およそ129兆円)に達すると見られる。ちなみに、2025年までの米国の核兵器装備のための費用は1,670億ドル(およそ17兆5,400億円)であった。つまり、条約を維持することで膨大な予算を節約することができるというわけである。

中国に無人軍艦が出現するか?
次に、米国はすぐに軍拡競争を再開できる状態にないのが現状である。兵器用プルトニウムの生産は1988年に停止。ハンフォードのプルトニウム生産工場は2017年に撤去され、またプルトニウムを使った起爆装置を製造していたロッキーフラッツの工場も2006年に閉鎖された。そして米国は新型の大陸間弾道ミサイルを保有していない。2020年9月に、ノースロップ・グラマン社が、ミニッツマン3に代わる新たな大陸間弾道ミサイルの開発の受注を受け、ミサイルは2029年2月までに初度運用能力を獲得することになっているが、そこから試験や軍での承認を受ける必要があり、また500基以上の生産を行うにはまだまだ時間が必要である。

つまり、米国にとっても「新START」を破棄することは無謀なことなのである。条約を延長することで、米国は新型ミサイルの再装備の期限を2035年まで引き延ばすことができるのである。

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