なぜアジア系住民は米国で生きづらくなったのか? 米国で激増するアジア系住民に対するヘイトクライム

2020年、米国では、アジア系住民に対するヘイトクライムが激増した。アジア系住民たちが侮辱され、嘲笑され、ときに暴力をふるわれるなどしている。なぜアジア系住民が米国で深刻な問題になりつつあるのか、スプートニクがまとめた。
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非営利団体「Stop AAPI Hate」が16日に発表した記事によれば、2020年に報告されたアジア系住民に対するヘイトクライム(暴力、侮辱、脅迫など)の数は3,795件に上った。前年に報告された同様の事件の件数よりも1,000件多い結果となっている。さらに、2021年に入ってからもすでにおよそ500件の報告があり、その数は増加の一途をたどっている。

米国に増大するアジアヘイト 日本のバンダイナムコUSが人種差別反対の声
米国のアジア系住民への法的支援団体「アジア系米国人アドバンシング・ジャスティス」の代表を務めるジョン・ヤン氏は、米テレビ局NBCからのインタビューに応じた中で、こうした暴力事件の増加の原因の一つは、新型コロナウイルスをめぐる反アジア的な発言だと述べている。

一方、非営利団体「AAPI Data」の創設者兼会長であるカーシック・ラマクリシュナン氏は、こうした動きをコロナウイルスだけで説明することはできないとの立場を示し、新型コロナは、すでに高まりつつあった貧困や生存のための闘いによって生じた対立をより深刻なものにしたに過ぎないと述べている。

またドナルド・トランプ前大統領がコロナウイルスを「中国ウイルス」と名付けたことも、アジア系米国人を憤慨させた。グーグルが発表したデータによれば、「中国ウイルス」という言葉の検索回数は2020年3月にピークにあったが、現在も検索は引き続き行われている。

中国、南開大学、社会心理学科のチェン・ハオ助教授は、スプートニクからのインタビューに答えた中で、アジア系住民に対する民族差別が高まっている理由について次のように述べている。

「何か災害が起き、その原因を説明しようとするとき、わたしたちは必ずその責任を追求するための犯人探しをします。今回その標的になったのが中国人です。米国市民は、中国人を区別することができないので、目の形や肌の色でアジア人すべて―とりわけ東アジアの人々を中国人だとみなしています。そういうわけで、米国におけるアジア系住民への憎悪犯罪が増えているのです」。

韓国人カップルが最近、アイウィットネス・ニュースに対し語ったとところによれば、2人は、ニューヨークの通りで、知らない女性から侮辱的な言葉を浴びせられたという。被害者2人が撮影した動画には、中年女性がタクシーの中から大きな声で「中国に帰れ!」と叫んでいる姿が映し出されている。2人は警察に民族的嫌悪をベースにした犯罪として、被害届を出したという。こうした事件は、最近、少なくない。

ジョージア州社会学科のロザリン・チュウ教授は、スプートニクからのインタビューに応じ、米国社会において、特定のグループに対する暴力が急増しているという傾向は、非常に懸念を呼ぶものだと指摘する。

「アジア系住民に対するヘイトクライムが増加していることは、大きな懸念を呼んでいます。ドナルド・トランプ前大統領が自身の支持者らの間で外国人嫌悪を扇動するために過激な発言をしていたことを考えれば、驚くべきことではありません。連邦議会議事堂の襲撃のときも同様でした。嫌悪的で刺激的な発言が、人々を残忍な行動に向かわせています。反アジア的な言動によって、攻撃を受ける人たちの人間性が否定されているのです。それにより、アジア系の人々への攻撃事件が急増しているわけです」。

アジア系住民に対する人種差別が増加しているのは米国だけではない。2月、英国南東部では、4人の白人男性が中国系の37歳の大学教授の顔を殴るなどする襲撃事件が発生した。

アンガス・レイド研究所が2020年6月に実施した世論調査では、新型コロナの感染拡大が始まって以降、カナダの半数以上のアジア系住民がなんらかの形で侮辱されたことがあると回答し、40%が脅されたりしたことがある、また30%が人種差別的な内容の落書きやソーシャルネットワーク上の書き込みを目にすると答えている。

こうした状況を受けて、カナダでは「FIGHT COVID-19 RACISM(コロナによる人種差別撲滅)」と題された特別なサイトが設置され、アジア系住民たちが自由に、ヘイトクライムの被害を報告することができるようになっている。

「私たちはウイルスじゃない」 新型コロナウイルスが人種差別に引火
ウー教授は、新型コロナによるストレスやウイルスの原因について情報が不足していること、またアジア系住民に対する歴史的なステレオタイプ、そして米国やカナダではアジア系住民が“永遠の外国人”とみなされていることが、こうした襲撃事件の前提条件となっていると指摘している。

一方、カリフォルニア大学バークレー校法学科のジョナサン・サイモン教授は、取材に対し、次のように述べている。

「総じて、これらは非常に憂慮すべき問題です。パンデミックと隔離が人々に怒りを引き起こし、それが強奪行為や人種差別という形で現れています」。

こうした状況に直面しているのは、一般市民だけではない。バスケットボールチーム、ウォリアーズのジェレミー・リン選手、Gリーグの試合中にプレーヤーの1人から「コロナウイルス」と呼ばれたと打ち明けている。

リン選手は、フェイスブックへの投稿の中で、「NBAで9年もプレーしているアジア系選手でさえ、コートでコロナウイルスと呼ばれるのです」と書いている。

米下院の台湾系、グレース・メン議員は、米国で暮らすアジア系住民に対し、黙っているのをやめ、声を上げるよう呼びかけている。ツイッターに投稿したメン議員は、次のように綴っている。

「わたしに届けられる人種差別に関するメッセージの内容には本当に傷つけられます。しかし、多くの人々がこうした人種差別によって命を落としています。アジア系米国人に対する憎悪犯罪は増加し続けています。わたしたちも自分たちの意見を口にしなければなりません」。

2020年9月にアジア人差別に反対する人々が行なった世論調査では、アジア系米国人の成人のうち、10人に8人が米国政府の政策は侮辱的なものであり、トランプ前大統領のソーシャルネット上のメッセージは人種差別的なものだと思うと回答している。

また、6月にピュー・リサーチ・センターが実施した世論調査では、39%のアジア系米国人が、集団でいると居心地の悪さを感じると回答し、また31%の回答者が人種差別を受けたり、侮辱的な言葉や冗談を言われたことがあると答えている。

こうした状況を改善する方法はあるのだろうか。これについて、チェン・ハオ教授はこう述べている。

「バイデン大統領になったことで、状況が改善されるかどうかは分かりません。もし政治的正当性が社会において体系的な保護の役割を果たすようになれば、不快なことを経験した人たちは、差別は正しいことではないということを理解するようになるでしょう。そうすれば、人種差別に関する状況も改善されるかもしれません。米国のメディアや社会―政治家なり、ビジネスエリートなりが、こうした行動を声高に非難するようになってくれると信じています。誰も皆、世界、あるいはそれぞれの国が正しい方向に発展していくよう今も期待していると思っています」。

ジョー・バイデン米大統領はすでに、こうした状況に注意を向けるよう指示を出している。2021年はじめには、司法省がアジア系米国人に対するヘイトクライムの激増に対処するよう求めた宣言にも署名している。

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