「マーシャとくま」の生みの親、アニメーターのオレグ・クゾフコフさんは、1996年にはすでにアニメの構想を考えていた。それから12年が経った2008年、必要な資金や設備を集め、ようやくAnimaccordを設立することができた。制約の多い既存のアニメスタジオでは、彼が理想とするアニメを作れないと考えたためだ。現在のAnimaccordには、このプロジェクトを心から愛する人たちが集まっている。
くまの「中」の人、実は音響監督
くまの声を担当するのは、ボリス・クトゥネヴィッチさん。かつて国を代表するアニメスタジオ「ソユーズムリトフィルム」や他のスタジオで働いていたが、音響監督としてプロジェクトに引き抜かれた。当初、くま役の声優を探したものの、くまは人間の言葉を話さないので、ボリスさんの求めるものを正確に表現できる人はいなかった。最終的にオレグさんから「もうお前がやってくれ」と頼まれ、音響監督と兼務することになった。
「アニメの立体的な絵に合わせ、全てのディティールまで考えつくされた深みのある音を作りたい」というのがボリスさんのこだわりだ。それを助けてくれるのが少年時代の体験である。まだ小学校低学年だったとき、父親が、友人のダーチャ(夏の別荘)にボリスさんを残していき、ボリスさんはそこで2、3か月暮らした。ダーチャは森と川と沼に囲まれていた。そのとき、自然の中にある、ありとあらゆる音に触れる機会を得た。くまが住む家は森の中にある。「マーシャとくま」には、ボリスさんが体験した、ロシアの豊かな自然が反映されている。
ロシア語オリジナルバージョンでは、マーシャの声を子どもが担当している。これはリアリティを追及した制作陣のこだわりだ。プロジェクト開始時、オーディションを経て選ばれたのがアリョーナ・ククシュキナさん。有名俳優らが自分の子をこぞってマーシャ役にしようとしたが、そういう「訓練」を受けた子どもたちでなく、まったく普通の家の子どもである、当時6歳のアリョーナさんが選ばれた。そういう子はマイクの前で演技などできない。アリョーナさんのお母さんが側につき、笑わせたり、困らせたり、時にはくすぐったりして、必要な声を出させたのである。
現在19歳のアリョーナさんはすでにマーシャを「引退」し、大学でマーケティングを学んでいる。ときどき、他のキャラクターの役で出演することもある。制作現場の雰囲気はとても温かく、ひとつの大きな家族のようだ。マーシャが引退するときは次のマーシャに色々なことを教えてあげるのも、チームの伝統となっている。
日本でも愛される存在になってほしい
マーシャがカーシャ(お粥)を作りすぎてしまう微笑ましいエピソード「だいしっぱい」は、YouTubeで最も多く視聴されたアニメとして2019年にギネス記録を達成。この一話だけで再生回数は現在45億回にものぼり、この記録はいまだに破られていない。そして、今年8月にも、全話トータルで1000億回を達成しようとしている。プロデューサーのドミトリー・ロヴェイコさんは、「マーシャとくま」が日本でも広く受け入れられることを期待する。
ドミトリーさん「プロジェクトの当初から、商業的成功を目指すより、質のよいアニメを作ろうと努力してきました。もともとの視聴者は3歳から6歳の子どもを念頭においていましたが、実は大人のファンもたくさん見てくれています。年齢に関わらず、それぞれが自分にとって大切な何かを発見できるアニメなのです。アニメ文化が非常に発達した日本の視聴者の皆さんがマーシャとくまを受け入れてくれたら、私たちにとってそれは非常に高い評価となります。日本でこのアニメが愛される存在になることを願っています。」
8月5日からは新シリーズ「マーシャのものがたり」「マーシャのふしぎなおはなし」が放送予定。グッズ販売やイベント開催などのプロモーション活動を進めつつ、複数の大手放送局との協議も進行中だ。日本語版公式YouTubeはこちらのリンクから視聴できる。
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