「オリンピックは人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を推進する」
松井一實・広島市長は2020年の平和宣言で、「およそ100年前に流行したスペイン風邪は、第一次世界大戦中で敵対する国家間での『連帯』が叶わなかったため、数千万人の犠牲者を出し、世界中を恐怖に陥(おとしい)れました。その後、国家主義の台頭もあって、第二次世界大戦へと突入し、原爆投下へと繋がりました。」と指摘している。
そして、オリンピックを控えた今、東京五輪は意見の対立や議論を巻き起こす大きなトピックの1つになりつつある。この点について、スプートニクは松井氏に、東京五輪が、広島の時のように、平和と再生の真のシンボルになり得ると思うかと尋ねた。1945年当時、誰もが広島に生活が戻ってくるとは信じていなかった。そして、東京五輪のようなテーマが、核兵器問題や「自国第一主義」などのより重要な問題から各国を遠ざけているのだろうか。
松井氏:「パンデミック下における各国の対応について、例えば、経済統制と感染予防対策のバランスをどうするかということで、各国で空空な取り扱いになっているという事実はあるかと思います。
しかしながら、私自身はむしろ『各国で共通して取り組まなきゃいかん』となっているのはワクチン接種であり、今考えられる最も有効な手段として、多くの方に免疫を作ることが重要な中、同じ想いで連帯する側面があることがまず重要だと思っています。分断の部分もありましょうけれども、連帯できるところを重視して、それを皆で助け合っていくという世界作り、それが平和に繋がる発想だと思っています。
その上で、東京五輪に関してですが、広島の場合は、76年前の一発の原爆で破壊され、それを多くの方の協力を得ながら、間違いなく復興したという意味では復興を象徴するシンボルだと言っていただける街だと思いますし、平和を象徴する街だと言えると思います。また、今度のオリンピックに関しては、 IOC 国際オリンピック委員会そのものが、オリンピックというものは人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を推進するということを目指して開催されるものだと定義していますので、東京五輪もそれに該当することは間違いないと思います。開催の方法、具体的な手法等、いろいろ工夫しなければいけない中で、政府や組織委員会は『復興のシンボル』であるとか、いろんな形でタイトルをつけて評価をしながら、皆さんの関心を引くために活動していますが、私自身は、そういったさまざまな評価付けは、運営主体としてのいわゆる『工夫』を皆さんに知ってもらいたいという努力だと思っており、そのこと自体に対して良い悪いという判断は致しかねます。いずれにしても、復興ということで広島がシンボルとされていることと、オリンピック開催ということの復興とは、少し意味合いが違うんじゃないかと受け止めており、そのこと自体についての評価はしづらい、できないなと思っています。」
「今回の経験は多くの学びの場でもあった」
田上氏:「今回のパンデミックに関しては、分断と連帯の両方の動きがあったと思います。それは国際社会だけではなく、例えば、WHOのような国際機関に関しても様々な意見がありましたが、このパンデミックを通して、改めて国際機関の重要性が浮かび上がったと思っています。マスク外交やワクチン外交という言葉も生まれました。様々な動きがパンデミックの中でありましたけども、原点を確認する機会ででもあったと思います。国際機関の重要性ですとか、あるいは、非常に困難な状況にある国々を助ける行動が大きな信頼を生んでいくといったような原点を確認する機会でもあったと思います。
また、市民社会にとっても今回の経験は多くの学びの場でもあったと思います。多くの人が当事者意識を持つ機会になりましたけれども、是非核兵器の問題についても、もしこれが使われたら多くの人たちが同じような混乱の中に身を投げることになりますし、またそれは地球全体の問題でもあるという意味で、このコロナ禍を核兵器の問題ともつなげて考えていただけるように、私たちはそういうメッセージを発しなければならないと思っています。」
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