アジア向けのロシア北極圏のガス

日本はロシア北極圏でのLNG生産に大規模な投資を行う計画だ。しかし、LNGプロジェクトの意義はもっと広い。地球温暖化を背景に、地政学的緊張をはらむペルシャ湾と南シナ海を通るルートの代替に名乗りを上げる北極海航路を使ってLNG輸送が行われるからだ。
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7月末、日本のマスコミは、三井住友銀行と国際協力銀行(JBIC)がロシア第二のガス大手ノバテクの有望プロジェクト「アークティックLNG2」に融資すると報じた。融資額は20億ドルで、プロジェクトの外部資金調達は約92億ユーロになる予定だ。

ノバテクは「アークティックLNG2」プロジェクトへの融資について、海外の銀行で作るコンソーシアムと交渉の最終段階に入った。ロシア国籍を取得したアメリカ人のマーク・ジトウェイ副社長が7月末の電話会議で伝えた。ジトウェイ氏は次のように説明した。「私たちはこのプロセスを近いうちに完了させる作業を行っている。」

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「アークティックLNG2」はノバテクにとって、外資が参画する大規模LNGプロジェクトとしては2件目となる。株主はノバテク(60%)、仏Total(10%)、中国CNOOC(10%)、中国CNPCの子会社CNODC(10%)、日本の三井物産とJOGMECのコンソーシアムであるJapan Arctic LNG(10%)である。株式取得の枠組み契約の締結は2019年にプーチン大統領と当時の安倍首相の臨席のもとで 行われた。

ノバテクによると、日本側は「アークティックLNG2」から長期的に年間200万トンのLNGを引き取る契約だという。

世界最大のLNG消費国である日本にとって、こうした協力は供給先の多様化によるエネルギー安全保障の強化につながる。しかも、このプロジェクトはロシア政府の幅広い保証が適用された安定したプロジェクトであるに留まらない。

プロジェクトのロジスティクスは、ロシアの社会経済発展戦略に盛り込まれた「北極海航路通年航行」プロジェクトの実現によって確保される。計画によると、このプロジェクトにはロシアの戦略プロジェクトに充てる国家予算の約5分の1が拠出される。ロシアのアンドレイ・ベロウソフ副首相によると、北極海航路を基盤とする北極海トランジット回廊には2030年までに7160億ルーブルの投資が必要であり、そのうち4000億ルーブル以上が2021年から2024年の期間に費やされる。また、このうち2500~2600億ルーブルはロスアトムが投資し、1300~1400億ルーブルは国家予算と国家福祉基金から拠出される。さらに、北極海通年航行プロジェクトの費用は上方修正される可能性が高く、実際には1兆ルーブルを超える可能性も十分にある。

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2020年5月に極東北極発展省の評議会でスピーチしたアレクセイ・チェクンコフ極東北極発展大臣は「北極海航路の通年航行が前進することで、北極海航路はヨーロッパとアジアを結ぶ海路を30%以上短縮させ、スエズ運河まわりの完全な代替ルートとなりうる」と述べた。また、ペルシャ湾でタンカーの襲撃が続いていることや、南シナ海で米中の軍事的緊張が高まる傾向が明らかなことも、これらの海域を通る輸送路の安定性について懸念を抱かせる。

国連気候変動政府間パネル(IPCC)が先日発表した報告書によると、地球温暖化対策の取り組みとは裏腹に北極海の氷の融解は続くという。こうした状況が進めば、砕氷LNG船のニーズは減少し、カムチャッカで砕氷LNG船から通常のLNG船への積替えを行う物流ハブの建設費用も削減できるだろう。すなわち、輸送費も削減できる。

総じて、LNG輸出プロジェクトには、中国へのパイプライン・プロジェクトやサハリンからの石油ガス輸出といった、ロシアの石油ガスを北東アジアに輸出する既存のシステムを拡張させることが期待される。ガス需要は疑う余地がない。アジアの経済成長は維持され、中国だけを見ても、2030年までにエネルギーバランスにおける天然ガスの割合を現在の6%から15%に増加させる計画を持っている。この状況だけでも、ロシア産ガスの輸出に対するアメリカの制裁圧力は問題ではなくなる。

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