中国の「一帯一路」に対抗し、G7が米主導で進めるインフラ支援構想:成功のチャンスはあるのか?

米国は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に匹敵するプロジェクトをスタートしようとしている。米国は「一帯一路」に対抗することを念頭に、2022年1月にも、世界中の5〜10件の巨大インフラプロジェクトへの投資を行う計画だ。
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「スプートニク」は、専門家に取材し、米国が、世界における経済パートナーを獲得する中国との戦い勝つチャンスはあるのか、またこの世界の二大大国の対立で勝利するのはどちらかについて、それぞれの意見を伺った。
6月に開催された主要7ヶ国(G7)首脳会議で、各国首脳は、米国が発案した途上国向けの新たなインフラ支援構想「Build Back Better World」を導入することで合意した。この新たな構想は、すでに世界的に始動し、多額の資金が投入されている中国主導の広域経済圏構想を減速させることはできるのだろうか?
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巨大プロジェクトには適さないコロナ禍の今

雑誌「エキスパート」の金融アナリスト、アンナ・コロリョワ氏は、そうなる可能性は低いと言明する。その理由について、コロリョワ氏は、現在、世界は新型コロナウイルスによるパンデミックの中にあり、あちこちでロックダウンが続き、国境が閉鎖され、世界のサプライチェーンが混乱しているからだと述べ、次のように続けている。
「現在は富裕国ですら、巨大なプロジェクトを実現するための財源が不足している状態です。どの国も、国内の経済問題の解決やビジネスの支援に財源が必要だからです。しかも、米国とEU(欧州連合)は12月に開かれる次のG7サミットでこの新構想について合意しようとしている段階である一方で、中国は2013年からこのプロジェクトの実現段階に入っています。つまり、中国は優位的な立場を占めており、米国とG7加盟国は新たな市場と消費者を求めて、中国を追いかける立場にあることは明白です」。

リードする中国、追う米国とG7

一方、中国の専門家で、モスクワ国際関係大学と高等経済学院のセルゲイ・ルジャニン教授は、中国の経済構想は優勢にある状態となっており、欧米諸国がいかに努力しても、これを壊滅させることは不可能だと述べている。
ルジャニン氏は、新インフラ支援構想はまだ計画を宣言しただけのものだが、中国の構想はすでに、57ヶ国が加盟する中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)という新たな巨大な国際金融期間をベースに「急始動」していると指摘し、さらに次のように述べている。
「米国が主導する新たな構想の大きな特徴は、経済だけでなく、途上国の民主化を推し進めるということです。しかし、中国はすでに自らの構想に、3つの大陸の100以上の国を引き込んでいます。さらに中国は、プロジェクトの輸送や各国のインフラ整備だけでなく、『デジタル・シルクロード』の発展にも注意を向けており、(ブルームバーグの報道によれば)多額の投資が行われています。また、大規模な経済・インフラプロジェクトにおける主要なガスパイプラインで中国と中央アジアのすべての国をつなぐエネルギー・シルクロードもあります。ですから、現在の経済の流れにおいて、米国は明らかにそのスピードで中国に5年は遅れを取っています」。

欧州の同盟国を引き入れることは米国にとっての重要な一歩

米国問題専門家で、欧州国際総合研究センター副所長のドミトリー・ススロフ氏は、G7のプロジェクトは展望のあるもので、必ず実現されるだろうと言明する。
「米国とその同盟国は、もうすでに順調に始動している中国の大プロジェクトを減速させることはできないかもしれませんが、それにかなり対抗できるものにする力はあると思います。中国に対抗するというのは、米国の外国政策の戦略路線であり、バイデン大統領以降も続いていくと思われます。こうした路線を開始したのはトランプ前大統領ですが、バイデン政権は新インフラ支援構想に、アジアの主要な同盟国である日本だけでなく、G7の他の国々をも引き入れ、中国に対抗するための構想をうまく近代化させました。これは、米国がこの路線にかなり重点を置いているという結論を引き出させる米国の重要な一歩です」。

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ススロフ氏はまた、G7諸国はこれまでも数十年にわたって途上国への財政支援を行ってきた点を指摘し、これは豊かな民主主義を作りだすために世界で行われてきた慣行だと述べている。
その上でススロフ氏は、しかしそうした慣行に新インフラ構想という長期的な戦略イニシアチブという新たな「顔」をつけるために足りないのは政治的意思だけだと考えている。
「ワシントン(IMFや世界銀行が位置している)は最近まで、発展のための国際的な融資を受けることができる唯一の場所でした。それが、中国の一大プロジェクトは欧米の覇権に対する代替案を示し、融資提供に対する欧米の独占状態を崩したのです。しかし、現在(欧米主導の)G7諸国が再び、イニシアチブを持って、中国に然るべき形で対抗するため団結するという決定を下したのです」。
欧米の新たな戦略「Build Back Better World」は、高度な労働基準や環境を重視したプロジェクトへの支援を見込んでいる。

欧米のプロジェクトを制限するもの

一方で、ススロフ氏は、ほかでもないこうした欧米の主な原則が、「Build Back Better World」の発案を予期せぬ形で抑制するものになる可能性があるとも指摘する。
「高度な労働基準や環境を重視するというのは、欧米の常套句です。しかし、こうした民主主義の要素の優位性こそが、途上国にとってこのプロジェクトへの魅力を低減させる可能性があります。いくつかの国にとっては、まさに、環境、人権重視、ジェンダーバランスなどに対する高い基準を設けていない中国から融資を受けた方が有益となるということも否定できません」。
米国問題の専門家ゲヴォルグ・ミルザヤン氏も、この考えに合意する。
「米国は情報上の影響力、資金、政治的意思、地域における同盟国を有していますが、中国が与えるような行動の自由がありません。中国は、米国のように、投資に、政治的あるいは人権的な要求や条件を関連づけておらず、また融資を行う国の内政にも介入していません。ただ融資を行い、その資金が活用され、のちに償還されることだけを管理しています」。
たとえば、インドネシアは米国の中国抑止政策をかなり警戒している。一方の中国は、インドネシアに対して、従順な衛星国としての役割ではなく、インドネシアが、インド洋から太平洋への世界の「海の軸」という主要なカードを利用することで大きな利益を得ることができるビジネスパートナーとしての役割を提示している。
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マラッカ海峡はインドネシアにとって、国際貿易の最大60%が通過する地政学的に非常に大きな意義を持つものである。しかも、その貿易品の大部分は中国、日本、韓国がペルシャ湾岸地域から輸入する石油である。そこで、2013年、習近平国家主席は、ほかでもないジャカルタで、海上シルクロードの構想を発表したのである。
一方、投資会社「インスタント・インベスト」社の金融市場・マクロ経済分析部長であるアレクサンドル・チモフェーエフ氏は、世界経済における中国の成功には慎重な見方を示す。
「中国のプロジェクトの実現は、ソ連的アプローチを思わせるものです。ソ連は、巨大なダムを建設しながら、村々のガス化については考えていませんでした。その結果、村の生活水準は非常に低いままでした。中国は途上国に港を建設し、インフラを整備していますが、そこには民主主義的な安定という重要なものが足りません。その国々では、定期的に政変が起きています。ですから、合意やインフラに関する中国の成功がある日突然、無に帰したり、文字通り崩壊する可能性があります。一方で米国の民主主義的なコンセプトは長年にわたって機能しており、ほかでもない安定を保障するというイデオロギーに支えられています。米国政府が進めているこの欧米の『繁栄の図』というものは貧困国にとって、少なからぬ魅力を持っているのです」。
そこでチモフェーエフ氏は、中国の「一帯一路」構想と欧米の新たなインフラ支援構想「Build Back Better World」がうまく共存していく可能性を除外していない。そして、両者の間の経済とイデオロギーの競争というものが、今後数十年にわたって、地政学上の主なトレンドになるだろうとも述べている。
現時点で明らかなのは、世界のリーダーとしての役割をかけた米国と中国の争いがよりアクティブな段階に入ったということ、そしてこの争いに引き分けという結末はなさそうだということだけである。
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