法律上の軋轢
「朝鮮戦争は平和条約ではなく、休戦協定にもとずき終了した。その形式は、米国と中国の代表が署名を行っていないという独特な法律上の難題となっている。これらの国々は公式には朝鮮戦争の当時国ではなかったが、とはいえ各国と共に関与はしていた。そのため停戦合意は、米国の将軍(ただし国連代表として)と朝鮮人民軍(および中国人民志願軍)代表として北朝鮮の将軍が署名を行った。韓国代表は完全に署名を拒否した。そのため今日の停戦合意は、実質的には北朝鮮だけが署名した形になっている。こうした『手続き』が法的な軋轢を生んでおり、将来的に朝鮮戦争の終結宣言に署名を行う国々がまさに解決しなければならない問題となっている」。
米国は何を望んでいるか
「米国がこの宣言に関心がないことは明白だ。米国は、朝鮮半島における米軍の地位と存在意義が危うくなることを危惧している。米国は中国とロシアの国境周辺になんとしても強大な軍事的プレゼンスを維持しようとするだろう。これが米国政府がこの宣言に関する会談にしぶしぶ応じている理由の1つといえる。韓国と北朝鮮間の戦争が正式に終結した場合、米国にミサイル防衛システムがなぜ必要なのか、朝鮮半島に米軍が存在することに意味があるのかという疑問が生じることになる」。
「宣言締結にはたくさんの障害が存在する。その重大なものとしては、米国政府のもくろみに敵意を感じている北朝鮮政府の思惑が上げられる。残念ながら、これには十分な論拠がある。なにしろ米国は北朝鮮に対する制裁をまったく解除しておらず、それどころかますます強化している」。
「北朝鮮がイエスという訳ではない」
「特に大きな変化には繋がらないと思う。なぜならまず一点目に、北朝鮮は条件を付けているので、本当に終戦宣言が、4者(南北とアメリカ、中国)でできるか、まだ分からない。
次に、それができたとして、その後に繋がっていくか分からない。北朝鮮の関心は、終戦宣言に引き続き、今の休戦協定を平和協定に変えることだが、それは文在寅政権には関係がない。来年の5月9日で終わりだからだ。次の韓国の政権、それとバイデン政権、習近平政権との間でどうなるかということがポイントになる。
終戦宣言をうまく採択できたとしても、それは今の状況と変わらない、1953年7月27日以降、もう70年近く戦争はなく、それを再確認するに過ぎない。前に進むには、今の休戦協定を平和協定に変えなければいけない。
来年3月9日の大統領選挙で、保守の尹錫悦(ユン・ソクヨル)、野党の候補が勝った場合、休戦協定から平和協定に進むステップに、積極的に取り組むか分からない。その前に「まず非核化、核を放棄することが最初だ」と言う可能性があるからだ。李在明(イ・ジェミョン)という今の与党側の候補が勝ったらやるかもしれないが、今の段階では分からない。そう考えると、終戦宣言は韓国にとって意味があるのか分からない。
文在寅政権にとっては終戦宣言をやったということだけでレガシーになるので、本人にとっては良いが、実際のところポジティブな発展はまったく期待できない。
しかも、北朝鮮がイエスという訳ではない。北朝鮮がストレートにノーと言わないのは、北朝鮮は金正恩(キム・ジョンウン)の韓国訪問を考えているから。それがあるから今、文在寅と悪い関係になりたくないと考えられる。来年の1月には決めて、2月の第1週、すなわち大統領選挙の1ヶ月くらい前に金正恩が訪韓することはあり得る。なぜかと言うと、そうすると李在明が勝つ可能性がものすごく大きくなるからだ。金正恩が訪韓すれば李在明は必ず会う。だけど野党側の尹錫悦は会わない、会えないのだ。夕食会が必ずあるが、そこに李在明も尹錫悦も招待される。李在明は喜んで出席する。でも尹錫悦は票が減るから参加できない。李在明だけが金正恩と話をする。そうすると大統領選挙で非常に有利になる。北朝鮮はそれを考えていると思う。そこから考えて、文在寅大統領が熱心な終戦宣言について、頭から否定はしない。終戦宣言に目的があるのではなくて、金正恩の訪韓というものに話を繋ぐ可能性をちゃんと作っている、と考えた方がいいと思う」。