2月15日、ワリエワは、7時間にもおよぶ聴聞会やメディアの過熱報道にも関わらず、ショートプログラムで自信に満ちた演技を行い、首位を獲得。15歳の選手が、ドーピング問題による精神的重圧に打ち勝つことができたように見えた。しかし、彼女にはすでにフリープログラムを演ずる十分な力が残っていなかった。ワリエワは、新しい技を行う度にミスを重ね、自らの勝利への確信と演ずる力を失っていった。
それとは逆にトルソワは、フリープログラムで歴史に残る演技を見せた。「ロシアのロケット」は五輪記録を更新し、女子選手としてはじめて4回転ジャンプを5回も跳んで見せた。それでもトルソワは2位に終わった。
この結果にトルソワも我慢ができず、リンクの外で自制心を失った。彼女はミックスゾーンですすり泣きながら、「このスポーツが嫌い」と繰り返した。
一方で、アンナ・シェルバコワは、最後の瞬間まで五輪出場が危ぶまれていたが、表彰台の一番高いところに立つことができた。だが彼女は、五輪金メダリストとなっても感情を表に出さなかった。それはおそらく、彼女の周辺で起こったワリエワとトルソワをめぐる悲劇が原因だと考えられる。3人はエテリ・トゥトベリーゼコーチの下で一緒に練習に励んできた。
ストレスが残る五輪の結果について、通信社「スプートニク」は、五輪銀メダリストのヴィクトリヤ・シニツィナとニキータ・カツァラポフのアイスダンスペアを指導するアレクサンドル・ズーリンコーチに意見を聞いた。
「ワリエワは体力も気力も残っていない中でフリー演技のリンクに立った。彼女は十分に眠れず、精神的に疲れ果てていた。前日、彼女はスポーツ仲裁裁判所(CAS)のオンライン会議に7時間費やした。会議ではドーピング検査で陽性が示された彼女のケースについて審議が行われた。ワリエワのような年齢の選手は、こうした試練を受ける必要はないはずだ。ましてや、彼女は欧州選手権と五輪のドーピング検査では完全にクリーンだったのだから。シェルバコワとトルソワは北京大会で輝き、最高の演技を見せた。しかし、カミラ・ワリエワの苦しみが彼女たちの勝利の喜びに水を差している。私はこんな悲しみを長らく味わったことがない。氷上の勝利者として復活するため、ワリエワが競技を続ける意義を見出してくれることを願っている」
アレクサンドル・ズーリンコーチは、現在、とても多くのことがエテリ・トゥトベリーゼ氏と彼女のコーチ陣、心理学者にかかっていると指摘する。同コーチは、彼らはワリエワをサポートするだけでなく、彼女が心の平穏を取り戻すのを手助けする必要があると考えている。
フィギュアスケーターのエレーナ・ラジオノワも、ワリエワの五輪初出場は、彼女のキャリアにおいて最悪のスタートとなったと考えている。
「彼女を見るのがつらいわ。ワリエワは五輪の期間中、たくさんの苦しい時間を耐えなければならなかったけど、それでも彼女は大会に向けて100%準備した。それは団体戦での彼女の素晴らしい演技で明らかだった。それでも私は彼女がさらに前を向くと信じている。彼女のシニアシーズンはまだはじまったばかり。早い時期にドーピング問題が解決し、彼女が安心してスポーツに打ち込めるようになることを願っています。だってワリエワはフィギュアスケート界のダイヤモンドなんですから!」
また、エレーナ・ラジオノワは、アンナ・シェルバコワが五輪金メダリストになったことをとても嬉しく思うと語った。
「まさしく自信に満ちた王者の演技でした。同時に、アレクサンドラ・トルソワは残念でした。彼女の5回の4回転ジャンプも十分金メダルの価値がありました。だって彼女は北京五輪で歴史を作り、フィギュアスケート界を牽引したのですから。もし金メダルを2つ授与できるのなら、私は2人に渡したかったですね」