イコン教師を目指しロシアへ修行の旅
「祖父母が亡くなった時、遺品の整理をしていたら、たくさんの美しい十字架やイコンが出てきました。正教会の教会芸術は素晴らしい。また、かつて祖父の教え子だった正教の信者の皆さんと話をし、交流する機会がありました。そして私の祖母は、人間的に素晴らしい人でした。いつ何時も穏やかに祈りを捧げていて、声を荒げたのを見たことがありませんでした。」
「修道院ができてイコン制作の学校がオープンする暁には、教師が必要になります。そこで、ゲラシム司祭から私に、白羽の矢が立ちました。絵を描くという才能は、神様から頂いたもの。ですから、日本初の正教会の修道院で力になれるのなら、その期待に応えたいと思いました。」
多様なイコンのスタイル
「ビザンチン時代のイコンは好きで自分でも書きますが、私が特に好きなのは13世紀から16世紀のロシア・スタイルのイコンです。このスタイルのイコンには、個人の主張や流行に左右されない美しさがあります。さらに、日本人のメンタリティと通じるものがあり、祈る人のために、計算し尽くされています。イコンの重要なポイントは、祈りの邪魔にならない、ということなんです。この時代のスタイルは日本ではあまり見る機会がないので、日本でぜひ紹介したいと思います。」
不便を楽しむロシア人
「ロシアは気圧の変化が大きいので健康面での不安はありますね。秋口は病気がちになると感じています。でも、ロシアでの生活は好きです。ものを作る人間の性(さが)と言うんでしょうか。日本って不便を嫌っていて、不便は罪、くらいに思われていますよね。100円ショップですごく便利なものが買えたり。でも、そこまでやり過ぎると、人間って工夫や努力をやめて、甘えちゃうんじゃないかと思います。ロシアの人は、不便なことがあっても、なんでも自分でできるし、自分で作ります。不便も楽しめる心の余裕があって、クリエイティブだな、と思います。」
ほとんどいない外国人の「鐘つき」
「もちろん、学校を卒業したら日本に戻ってイコン学校を作るつもりでした。これからどうなるか、それは神様のみぞ知ることです。帰りたい気持ちもありますが、日本では若い正教徒がほとんどいないので、帰っても教える対象になる人がいません。イコンは神学の一部ですから、新しい修道院がなくても、ニコライ堂や日曜学校で教えられれば良いですが、今の日本正教会にはそのような環境がありません。でも、私は福音書の通り生きられていることが本当に嬉しい。ドネーションしてくださる方もいます。それはすごいことだと思っています。」
「日本人が、地理的に近いのに、ロシアという国についてほとんど知らないのは何故でしょうか。それこそ『おそロシア』とか、戦争をした国など、日本人はロシアのネガティブなことばかり挙げて話しますが、親日家が多く、とてもフレンドリーで温かな国民性であることは知られていません。欧米からのいわれのない経済制裁やインフレで苦しめられ、我慢に我慢を重ねながら生きているロシアの人たちがいることを知ってほしいです。」