日本が権益を失っても、ロシアはダメージなし
「サハリン1はエクソンがオペレーターとして事業運営を担当しているので、時期を明らかにしていませんが、実際に撤退したら操業に支障が生じる可能性はあると思います。しかし日本企業が撤退しても他企業が買い取るだけで、ロシア側には何の打撃もありません。サハリンプロジェクトは、日本国内や米国の横やりを受けながらも、1970年代から相当の歳月、労力と国の威信をかけて取り組んできたものです。撤退となれば、これまでの日本のエネルギー政策を根本から覆すことになり、あまりにも失うものが大きいと思います。」
「天然ガス調達の際、長期契約の場合は価格を石油と連動させることが多く、一方スポット契約の場合はその瞬間のガスの値段が市場取引で決まります。今はスポット価格が高いので、長期契約の方が安く買えます。スポットが安い時もあるので一概に言えませんが、現状では調達のための追加コストがかかることになるでしょう。輸入を止めたり権益から撤退することは政治問題で、言うのは簡単ですが、実際にやってしまうと2度と戻れない。権益は戻らず、輸入も再開する判断が難しくなります。スポット購入により出費が増える、というコスト面以上の影響があるでしょう。」
「日本が撤退すると更に開発に遅延をもたらす可能性があるので、若干ロシアにもマイナスかもしれません。でもこれも、日露で進めてきた非常に大きなプロジェクトです。施工も日本のプラントメーカーですし、プーチン大統領の肝煎りプロジェクトであるが故に、税制優遇もあります。日本がここから撤退するのは、むしろ日本にとって大きな痛手になります。」
制裁参加で、これまでのエネルギー政策が「過ち」となるか
「これまでのロシアの資源開発権益のことを考えれば、日本はあらかじめ、もう少し違った立場を表明すべきだったと私は思っています。日露エネルギー分野での協力関係、開発と輸入は、ここ30年ほど、日本のエネルギー政策において非常に重要な位置付けにありました。しかし今回、十分に検討して判断したのか、そうではなかったのかはわかりませんが、西側と一緒に大規模制裁に参加したことで、前提が大きく覆ってしまいました。ドイツの経済・気候保護相は、ロシアからの天然ガス輸入を拡大してきた過去の判断を『ヒストリカル・ミステークだ』と言ったそうです。ロシアからの購入を増やそうというスタンスでやってきた日本も、ドイツの言い方に合わせれば、同じ過ちを犯そうとしてきたわけです。いずれにせよ、日本のエネルギー政策は根本的な再考が必要となるでしょう。」
過去最高の中東依存に懸念
「米国は、ロシア以外の石油生産を増やす目的で、生産を増やす余力のあるイランの経済制裁を解除しようと目論んでいますが、イスラエル、サウジアラビアは反発しています。イランが輸出を増やせば経済力がつき、中東のパワーバランスが崩れ、中東の混乱が増していきます。しかしそれでいて、日本は中東への依存をますます高めていく。中長期的には、日本は選択肢がない辛い状況に置かれていきます。」