こうしたトルコの積極的な立場は、トルコがユーラシア地域で、主導的役割を目指そうとしていることによるものだと説明することができる。トルコ問題に詳しい、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所の発展・近代化問題センターの専門家、アイタン・ガサノワ氏は、これは、ウクライナ紛争が地域の利益に関わるものになってきたからだと指摘する。
「トルコはすでに、『アスタナ・プロセス』の枠内で、シリア問題の平和的解決に向け、ロシアと協力した経験を有しています。加えて、これまで、ナゴルノ・カラバフ問題をめぐっても、ロシアとトルコの二国間の協力がありましたし、この関係は現在も維持されています。また同時に、トルコはチュルク諸語の世界におけるリーダー的存在であることから、クリミア・タタールの問題もトルコにとって無関心ではいられないということも忘れてはなりません。いずれにせよ、トルコは、ウクライナ紛争の当事者双方との対話のための『接点』を見出しています。さらに、トルコは大きな切り札を持っています。それは中立的な立場の役割を果たしつつ、ロシアとも、ウクライナとも良好な関係を保っているということです。だからこそ、トルコはウクライナ危機の平和的な解決の場において価値ある仲介者となるわけです」。
一方、ロシア政府付属金融大学政治学部のゲヴォルグ・ミルゾヤン助教授は、ロシア・ウクライナ協議におけるトルコの役割を、ミンスク合意(2022年2月に失効)の取りまとめに際するドイツとフランスの意義ある貢献と同一視することはできないとの見方を示している。というのも、トルコと異なり、フランス、ドイツは、単なる仲介者ではなく、結局は実現されなかったものの、ミンスク合意の保証者でもあったからである。トルコは今のところ、自国領をロシアとウクライナの協議実施のために提供しているだけである。というのも、トルコにとってこれは国際的な地位の問題だからである。加えて、ミルゾヤン氏は、トルコには独自の外交政治上の目的があると指摘する。
「エルドアン大統領は、トルコが、東欧における国際紛争の解決に向け、効果的な仲介役になれるということを証明したいと考えています。トルコの指導者は、西側とウクライナにその努力を評価してもらうことを期待し、それによってトルコの国際的な地位が高まることを望んでいるのは明らかです。また同時に、トルコの役割は、ロシアにとっても、益々、大きくなってきています。そこでエルドアン大統領は、この『利点』を積極的に利用するつもりなのです」。
このように、トルコは、自国の国益を重視した行動をとりながら、多極的で、より複雑なゲームを展開している。その主要な目的と外交的目論みは、国際的なパートナーのすべての国との関係において利害を失わず、また同時に自国の利益を守ることなのである。