北海道の三大市場のひとつ、釧路市にある和商市場には、新鮮な海の幸を求めて大勢の観光客が訪れる。和商市場協同組合の柿田英樹理事長は、さけ・ます漁業交渉の行方を心配しながら見守っていた一人だ。和商市場にある店のほとんどは、ロシアの鮭を扱っている。ロシアとの関係が悪化することで、商材が足りなくなり、地元経済に影響が出ることが考えられるためだ。
「海の環境が変わってきて、それだけでも水揚げ量が減っており、さらにロシアとの交渉が難航し、もしかしたら今年はないのかなと…紅鮭のシーズンは、5月から7月まで。国産だけでは必要な量をまかなえません。私の店もそういう商材を中心に置いています。商材が少なくなると魅力がなくなって、観光客も足を向けなくなる可能性があります。売り上げが落ちるだけでなく、多面的な影響があるのです。」
漁獲量については前年と同じ内容で妥結することができ、「ひと安心。市場の皆さんも同じ気持ちだと思う」と話す柿田さんだが、値上がりは避けられないと予想する。燃料高騰で、漁にかかる費用が価格に反映されるためだ。
国レベルでの漁業交渉を行うさけ・ますと違って、ウニやカニなどは、数が少なくても入荷が止まるということはない。ただしこちらも価格は上がり続けており、ウニは2倍、あるいはそれ以上に上がっているという。
ロシアの魚缶詰工場「ロシアの魚の世界」社のアレクサンドル・ジンチェンコ広報部長は、ロシア市場も日本と状況は同じだと話す。ロシアに多数ある日本食レストランは、物流の問題と価格高騰、制裁による支払いの困難さなど、海産物の仕入れに苦しんでいる。
漁業分野以外でも、北海道にはロシアと関わりの深い中小企業が多数存在する。道内の船舶代理店で働く人は、「ロシア向け、あるいはロシアからの貨物の量は全体的に少し減っているものの、今のところ普段どおりの仕事ができています。これからどうなるか不安になりながら様子を見ています。ロシアとのビジネスを続けたいと会社のみんなが願っています。とにかく早く終わってほしい」と、吐露してくれた。