専門家らが、今回、検討されている「反撃能力」(現時点では仮説ではあるものの) とは中国の軍事指導部を意味していることを考慮に入れつつ考察する。
中国とロシアにますます接近しつつある西側
中国問題の専門家で、モスクワ国際関係大学および高等経済学院の教授でもあるセルゲイ・ルジャニン氏は、日本の国会で行われた中国の指揮統制機関に対する反撃能力に関する公然たる議論は、西側諸国が、対露および対中関係に関する全体的な政治上の「過激化」を行っていることによって引き起こされたものだとの見方を示している。
「中国側が、中国領内への反撃の可能性に関する日本の専門家の見解を注視していることは疑いの余地もありません。従って、クアッド(日米豪印戦略対話)あるいは米英豪による安全保障の新たな枠組みであるオーカス(AUKUS)といった米国のプロジェクトへの日本の参加に対し、中国はその立場をより厳しいものにしていくものと予測する必要があるでしょう。オーカス加盟国は、現在、極超音速兵器の開発への日本の技術に期待感を示し、日本に対し積極的に参加を打診しています。ですから、近いうちに、ロシア外務省と中国外務省が、(露中両国と)日本との間の領土問題に関して公式的に立場を接近させていく可能性も除外できないと考えます。こうした状況が生まれるまで、ロシアと中国は、それぞれが日本との間に抱える係争について、かなりニュートラルな立場をとっていたのに、です」。
こうした状況を背景に、中国とロシアの協力関係はあらゆる方向性において、逆にますます強化されていくと思われる。
政治が経済よりはるかに重要―危険な行動に出る日本
世界情勢もまた日中関係に影響を与えている。
しかし、今、政治がますます重要性を増し、経済はその重要度を失いつつあると中国の専門家、セルゲイ・ルジャニン氏は付け加えている。
「日中関係における経済問題は、少しずつ政治の方へと『流れています』。台湾に米国の軍備を整えるという問題も、アジア太平洋地域の緊張緩和を促進するものではなく、逆に日中関係を激化させるものです。ですから、この場合、日本政府は『危険な行動に出ている』わけです。しかも、可能性のある反撃の相手として、中国政府が名指しされています。このような場合において、中国側からは厳しい反応しか期待できません。岸田内閣は日本と米国の政治的な利益を、経済問題よりもはるかに重要なものに据えたということは明らかです。かつて、日本と中国の2国間関係においては、経済が支配的だった(対立はあったものの)のです」。
日本は関係悪化の道を選ぶのか?
軍事専門家で、露防空部隊博物館の館長を務めるユーリー・クヌトフ氏は、かつて日本政府は事実、中国や地域の隣国に対し、挑発的な発言や議論を控えていたと指摘し、次のように述べている。
「これまで日本の政権は、中国とも、ロシアとも、分別ある対話を図り、それを維持してきました。しかし、現在は、たとえば、ロシアと係争中の南クリル諸島に関して、日本政府は2003年以来11年ぶりに、『不法占拠』という言葉を用いました。一方、反撃能力が行われる可能性のある場所として中国領土の目標が設定されたことは、疑いなく、米国に向けた日本の政治的な『儀礼』です。中国との有事の際に日本が期待する米国からのいわゆるシグナルのためです。しかもこれは、米国および国防総省とNATO(北大西洋条約機構)のためにあらかじめ特定された目的を持つ同盟国の軍事支援を期待する日本政府指導部が意図的に公にしている戦略です。中国に対する米国とその同盟国の圧力は、実際、より強いものになっており、そのことは中国の影響力拡大をけん制するという日本の利益に適ったものなのです」。
このように、日本政府が、ロシアと中国の関係における新たな戦略的現実において激化の道に向かっていることはますます明白だとクヌトフ氏は確信を示している。