日本と西側諸国は誰を「罰している」のか ロシアか、それとも自国民か

岸田首相は先日の記者会見で、世界的なエネルギー価格と商品価格の急騰は、ロシアのウクライナでの行動によるものだと述べた。世界で起こる不幸はすべてモスクワのせいだという「非難の合唱」は拡がるばかりだ。しかし、エネルギー価格の高騰を誘発したのは欧米諸国の大規模な対ロシア制裁だという事実は見落とされている。アメリカ、EU、イギリス、そして、それに与した日本は、制裁の影響に対してまったく準備ができていなかった。そのため、ウクライナでエスカレーションを起こしたロシアを大胆に「罰し」て問題ないという、アメリカとその同盟国の傲慢な確信が、西側諸国と日本自身を大きく傷つけている。
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結束した西側諸国の反ロシア路線は、国民に跳ね返ってくる代償が増える一方だ。いったいどこに根本的な過ちがあるのか。スプートニクが専門家にきいた。
当然、(日本を含む)アメリカのパートナーは、自国経済への影響を最小限にとどめるため、反ロシア制裁のリスク、特にエネルギー分野のリスクについては慎重に検討しているはずだ。しかし、自分たちの制裁がこのように「ブーメラン」になって跳ね返ってくることはあきらかに予測していなかったようだ。制裁による損失は当事者双方に同じように襲いかかった。ロシア科学アカデミー極東研究所(日本研究センター)で日本のエネルギー政策を専門に研究するコンスタンチン・コルネエフ上級研究員はこう説明した上で、次のように語った。

「ロシアは、ロシア産エネルギー資源がこれほど大規模な制裁を受けるとは思っていませんでした。しかし欧米諸国もまた、対ロシア制裁戦争が自国経済にここまでマイナスの影響を及ぼすとは、あきらかに予想していませんでした。おそらく経済先進国は十分に保護されている、マイナス影響にも耐えられるだけの備えがあると信じていたのでしょう。ところが、反ロシア制裁はエネルギー市場で深刻かつ国際的な危機を引き起こし、ただちにエネルギー価格の未曾有の高騰となって表れました。そのことが、日本の首相が言うように、すでに「世界中の人々の財布を直撃」しているのです。 」

対露制裁を強める日本にとって、エネルギー分野は例外となるのか?

岸田首相は日本人の損失を無視しているのか

すでに国家予算にも、国民の財布にも、あきらかなダメージが出ているのに、それでも岸田内閣は反ロシアのレトリックを撤回できないのだとコルネエフ氏は言う。
「そのような方針転換には、日本のパートナーであるアメリカや西側諸国の理解が得られません。安倍元首相には、より独立した国家政策を行い、うまく国益を守る能力があったのですが、今の首相は完全な親米派であり、外交政策の意思決定に関して、決して独立しているとは言えません。アメリカは食糧危機の責任もロシアに押し付けようとしています。ですから、今後、日本がその非難の輪に加わったとしても驚きません。」
実際、現在の岸田首相の反ロシアのレトリックは、首相にとって一種の「セーフティー・ネット」になっているのだとコルネエフ氏は指摘する。つまり、エネルギー価格の未曾有の高騰に対する日本人の反感を抑えようというのである。そうしなければ、与党、政府、そして岸田首相自身の支持率に響く上、他の要因も重なって支持率は一層悪化するとコルネエフ氏は説明する。
「支持率はすでに低下しています。というのも、エネルギー価格のほかに、ロシアが最近になって、クリル諸島海域での日本の漁獲枠を停止したからです。北海道の住民の大部分にとっては、これが生計をたてる唯一の方法なのに。生活の糧を奪われ、経済的損失を被って、不満を持たないはずがありません。」

政府は日本人の不満を 「和らげる 」ことができるのか

しかし、国民の反感を「和らげる」戦略も、本当に成功させられるのか最後まで計算し尽くされていない可能性がある、とコルネエフ氏は指摘する。

「日本は古い原子力発電所を再稼働させることもできるでしょう。しかし、原発の標準的な寿命は決して長くないことを忘れてはなりません。40年プラス20年の延長です。原発は非常に高価な施設であり、運用停止や完全な廃炉も複雑なプロセスです。日本では、たとえ再稼働時にどんなに最新の安全基準を導入しても、そもそも古い原発しかありません。(1980〜90年代のアメリカ製やフランス製がほとんど。)最高レベルの安全性を備えた最新の原発を日本は建設していないのです。」

したがって、これが長期的な戦略になる可能性はない。ロシアのエネルギー資源を完全に代替する方法がない以上、日本がロシアのエネルギー資源からの脱却を目指さないのは正しいとコルネエフ氏は考える。

制裁は常に両刃の剣

制裁が当事者双方に影響することを疑う人は、もはや世界のどこにもいないとコンスタンチン・コルネエフ氏は言う。
「ロシアは北朝鮮ではないのです。大きな国であり、それに相応しい規模の市場があり、世界経済に深く組み込まれています。どんな対ロシア制裁をもってしても、その要素を無かったことにはできません。そのため、国際的なエネルギー資源危機が始まったことで、西側諸国は、世界経済ではいかにすべてが依存し合い、つながっているのか、慣れ親しんだ経済関係を壊すと、いかに高い代償を払わなければならないのか、を認識するようになっています。」
したがって、現時点で岸田首相が有利な立場に立てる唯一の方法は、(エネルギー価格の上昇も含めて)すべてロシアが悪いのだと有権者に訴えることである。しかし、彼は彼なりに、一国の長として、唯一正しい道である親欧米方針をとりつつ、困難な状況をコントロールしようと努めているのだと、コルネエフ氏は説明した。
今日、日本の平和にとって軍事同盟は必要か?
ただし、有権者は、どんな発言をしたかによって政府の善し悪しを判断するのではなく、どれだけ電気代が上がったかで判断するだろう。一方で、対ロシア制裁への参加を急がない中国やインドは、ロシア産エネルギー資源を購入し、しっかりと備蓄している。それが国民と産業の双方に利益をもたらし、同国の世界市場での競争力を高めている。そして最も重要なことは、これらの国々が余剰分を輸出し、転売することで利益を得られることである。もちろん、転売先は、ロシア産エネルギー資源などなくてもやっていけると、傲慢に自信過剰だった国々だ。
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