東洋学科は中国、日本、韓国、そして中東にわかれており、今年はおよそ150の論文が提出された。うち、日本を研究対象にしているのは40人ほど。ほんの数年前は、歴史や文学といった、古典的な分野の研究が多かったが、今の学生はより広い分野に興味を持っている。
筆者が参加した日は、平家物語と「アーサー王の死」における武将と騎士の描写を比較したもの、戦後、米国によって日本が占領されていた時代の児童文学、日本のマンガ・アニメにおける「クィア」(既存の性に当てはまらない人たち)の存在、ポップカルチャーやゲームにおける織田信長の姿といったテーマが取り上げられていた。
この日満点を獲得したのは日本のお化け・妖怪の研究、アメリカ小説「響きと怒り」3種類の日本語訳の印象比較、朝日・読売・毎日の各新聞の論調をトピック別に比較した研究だった。
卒業論文審査会
© Asuka Tokuyama
東洋学科の教育プログラムアカデミックリーダーで日本専門家であるウリヤナ・ストリジャク准教授に話を聞いた。今年は、東洋学科全体を通して、フェミニズムやジェンダー研究が飛びぬけて人気だったという。国別で言うと、中国を研究対象とする場合は政治経済、日本の場合は社会・日常生活に関するテーマの関心が高い。
また、ここ数年は数人の学生がグループで作業するプロジェクト型の卒業論文・制作がちらほら現れるようになった。紙に書かれた従来型の研究論文に加え、そこで得られた研究結果の活用例として、IT技術を駆使したインタラクティブな「付録」がついてくることがあるという。
このような研究発表は、文系・理系にかかわりなくプログラミングの授業を行っている高等経済学院だからできることだろう。上記で紹介した日本の各新聞記事の比較も、IT技術を活用し膨大な数の記事を分析したものである。
「ほんの数年前は、歴史や文学など、いわゆる古典的な定番の研究というのが一般的でした。今では、現実の課題を解決するための研究が増えてきたと感じています。以前は、自分の専攻は日本なのに、なんで別の国についての講義を聞かないといけないの?という学生がいました。でも今では、アジアのひとつの国だけでなくて、アジア世界全体について知らなければならないという意識が広がっています。ひとつの国だけ研究するのは地域研究という別の学問であり、東洋学ではありません。卒論でなくて学年末研究ですが、中国とアラブ諸国を専攻する学生が協力し、中国の商品がアラブ市場でどのような位置を占めているかという研究を行ったケースもあります。」
韓国研究の卒論で最高点を獲得したのは、韓国コスメやケアプロダクトの市場研究だった。最終章では「得られた知見をロシア市場に生かすにはどうすればよいか」について言及している。ロシアのアジア的要素を認識した上で、東アジア市場での経験をどうロシアに生かすかという視点は、実践的にマーケティングなどに使えるものである。
高等経済学院の卒業生は高い日本語能力をもち、ロシアにおける日系企業でも高い評価を得ている。これまでも、ユニクロなど企業と協力し、広告制作やマーケティング分野で現役の学生のうちから活躍してきた。東洋学科は9月からの新学年に向け、実社会で役立つことを念頭に、プログラムを組んでいく。
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