カザンといえば2018年、サッカーW杯日本代表がベースキャンプ地にしていたことを覚えている人もいるかもしれない。102年ぶりに皇族としてロシアを訪れた高円宮妃久子さまが代表チームを激励したのも、この地だった。今の国際情勢を思えば実に隔世の感がある。
タタールスタンは天然資源と製造業に恵まれたロシア有数のリッチな地方都市で、ユニバーシアード開催経験もあり、インフラやスポーツ施設の充実ぶりは当時と変わらない。2015年の世界水泳選手権に使われたアリーナは実に立派なもので、アーティスティックスイミング選手を目指す子どもたちがトレーニングに励んでいる。
カザンの地元スイーツ 形は違うが全部はちみつの味がする
© Sputnik / Asuka Tokuyama
市内に繰り出せば、猛暑をものともせず観光客が練り歩き、クレムリンの横には観光バスがぎっしりだ。そのにぎやかさは、日本人から見れば意外だろう。タタールスタン共和国科学アカデミー歴史研究所のマラト・ギバトジノフ所長代理はカザンの魅力について「安近短でいながら、モスクワより物価が安く、旅行インフラも整っています。歴史的な名所や文化施設はもちろん、多民族の町ですから、ムスリムであるタタール人がどんな風に住んでいるか、モスクワで見られないものを見ることができます」と話す。タタールスタン共和国ではタタール語とロシア語が公用語になっており、イスラム教とロシア正教の割合はおよそ半々だと言われている。
カザンの新ランドマーク「お椀」は結婚や出生などを登録する役所
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ガイドブックに出てくるような観光名所はいくつもあるがそれは割愛して、カザンで驚いたのは図書館のハイレベルぶりである。新図書館は最近移転したところで、蔵書の多様さや最新の貸し出しシステム、セミナールームなど図書館としての機能はもちろん、テラスからはボルガ河が一望でき、カフェも充実し、図書館かホテルかわからないほどの豪華ぶりだ。館内には世界一小さいコーランや、タタール文化に触れられるコーナーもある。新刊図書の目立つところには、ゲームクリエイター・小島秀夫氏についての本があった。
昭和7年に日本語に翻訳されたコーランの一部
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カザン郊外には、建売で日本の家が買えると話題になった、飯田産業の「リトル東京」がある。180戸から成るロシア初のビジネスクラス・スマート住宅コンプレックスで、すでに30家族以上が入居している。多くの家は現在進行形で建設中で、私たちが訪れた日は、玄関前が未完成なのに待ちきれず引越し作業をする一家の姿があった。
ロシアでは、内装を自分で(あるいは自分が注文した職人)手がけることが多く、一戸建てともなればなおさらである。リトル東京は利便性を追求し、買い手の好みに応じた内容で内装工事をし、完全に住める状態で家を引き渡す。玄関を入るとすぐ、日本の家の懐かしい雰囲気が感じられるが、冬のコートをかけるスペースやアイロン台置き場など、ロシア生活に適した場所も設けられていた。モデルルームの向かいにはすでに入居者がいて、テラスで談笑していた。家の外観は完全に日本だが、庭がとても広いので、家庭菜園などを楽しむのも良い。ただし家自体は、物流事情悪化の影響で価格が上がってしまったという。
話を図書館に戻そう。移転する前の旧図書館は、市内中心部にあるウシコワの家と呼ばれる観光名所だ。20世紀初頭、化学工場社長の息子が妻となる女性にプレゼントしたもので、現在はロシア文化遺産に認定されている。老朽化が理由で移転したため、旧館には普段は入れないのだが、特別に入らせてもらった。家は1904年から1908年にかけて建設され、当時最新のデザインにこだわった。東洋をイメージした美しいステンドグラスや、日本をモチーフにしたドア、日本人彫刻家の作品が飾られた階段などがあり驚いた。また、部屋中が本物の苔に包まれた「苔の間」もある。苔の間は普通に自習室として使われていた。最近、修復された日本風の屏風が旧館のコレクションに加わった。建物は修復作業待ちで、また図書館となるのか、博物館となるのか未定だが、将来的には一般公開を目指している。
旧図書館の日本風屏風
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