国境を越えた芸術
世界の有名な博物館では、長い年月をかけて展覧会の準備が進められ、その詳細まで熟考されるものであるが、国立東洋博物館もその例外ではない。「茶の5つの要素」展では、東洋博物館の保管庫に収蔵されているものはもちろん、モスクワのコレクターが提供してくれた品々も展示されている。
展覧会の主催者らは、展示には、茶道具を含め、また茶道の発展の道―古代中国での誕生から現代まで―を余すところなく反映したものにしようと決めた。
展覧会では、複数の展示室を使い、ありとあらゆる品が展示されている。そこには、13世紀から21世紀にかけての中国、東南アジア、韓国、日本の主な種類の茶道具、漆製品、木工品、金属品、着物、さらには茶会で用いられた絵画なども含まれている。
主催者らは、茶道は生きた芸術であることから、展覧会には21世紀の品も含められていると指摘している。
ある展示会
© マリア チチワリナ
キュレーターのアンナ・エゴロワ氏は、現在、茶道は世界の財産となっていると語り、次のように述べている。
「世界の数百万の人々が茶道というものに触れたいと願い、それぞれの国にある茶道の学校に通うことを夢見ています。茶道を通じて、彼らは日本の文化に触れたいと思っているのです。一方で、この茶道という伝統は非常に日本的なものですが、他方で、それは世界を繋ぐものなのです。日本以外の国にいる人々にとって、茶道はときに何か非常にフォーマルなものだと思われがちです。しかし、わたしたちはこの茶道というものが、変わりゆく現象であるということを伝えたいと考えました。ですから、展示品には、さまざまな国、さまざまな時代の品を含めました」
博物館の学芸員たちは、日本をテーマにした展覧会はそれほど多くはないものの、その一つ一つは、非常に大きな注目を浴びており、たくさんの人々が足を運んでいると確信している。キュレーターのエゴロワ氏は、この展覧会の主な課題は、茶を振る舞うという儀式の国際的な面と驚くべき歴史を見せることだと強調している。
「茶道で重要なことは、茶会に参加するすべての人々に、心の平安、人々を取り囲む世界の調和を与えることだと信じています。茶を振る舞うという行為は、日本の人々が恐怖と損害の中で生きていた恐ろしい戦国時代に確立されました。喧騒を離れ、世の中の悲劇から距離を置き、せめて茶会の間だけでも、客と共にあらゆる問題から解放されたいという思いを抱くことは自然なことでした。そしてそれは今も変わっていません」
ある展示会
© マリア チチワリナ
茶道の人気の秘密
キュレーターのエゴロワさんは、茶道の人気に大きな役割を果たしたのが、裏千家だと述べている。
「戦後、茶道は日本の平和大使となりました。国外における茶道への関心が高い理由は、世界に対しいつもあまりオープンではなかった日本という国に対する好奇心、そして茶道のもつ意味の大切さにあります。調和、静寂、団結を生み出すというアイデアは、現代の世界においても非常に必要なものとされています。わたしたちは、複雑な激動の時代に生きています。しかし、美、静寂、心の休息、そして大切に思う人々、共に何かをする人々との連帯を感じたいというのは、世界のすべての国の人々の共通の思いなのです」
現代の茶道道具
© マリア チチワリナ
展覧会「茶の5つの要素」は8月10日から9月19日にかけて、モスクワの国立東洋博物館で開催されている。
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