この実験が行われるきっかけとなったのは、ニュージーランドのある家族が、フリーマーケットで買ったスーツケースの中から、2人分の遺体を発見したことである。残念ながら、こうした事件は、実際には数多く起きており、これは一例にすぎない。たとえば、2015年には東京の混雑する鉄道駅で、2020年にはシアトルのビーチで、また2019年には南豪州の街道沿いでも、スーツケースの中から遺体が発見されている。
研究者グループは、人間の遺体に見立てた70体の子豚の死骸をスーツケースに入れ、木の茂みに隠した。スーツケースには、遺骸とともに、スーツケース内の温度、湿度、水分などを計測する器具も詰め込まれた。実験は2022年の初冬に開始され、初秋に終了した。
実験の最終的な結果については、2023年の2月に国際犯罪学会で発表されることになっているが、いくつかの途中結果はすでに公表されている。それによれば、遺骸はスーツケースに入れた1か月後には、ファスナーの上にクロバエの卵が溜まり、さらにしばらくしてスーツケースを開けたときには、遺骸の組織にクロバエの幼虫が発見された。また中にはそれ以外の種類の虫も入り込んでいた。
これは、大きなハエや虫の幼虫も、スーツケースのファスナーの務歯の間から入り込み、遺骸に近づくことができたことを証明していると研究者グループは指摘している。より小さな虫であれば、成虫でも、ファスナーの務歯をすり抜けて、中の遺骸に卵を生みつけることができることも分かった。
一方で、中で成虫になった虫はその大きさから、スーツケースから出ることはできなかった。これら、スーツケースから出ることができなくなった虫が、研究者らにとってはもっとも大きな興味の対象となったという。研究者らは、残された虫のサイズや行動が被害者の死亡時刻やスーツケースに詰められた時刻を特定する手がかりになり、また外骨格に残された毒物学的データによって、殺害の原因や状況を解明することができる可能性があると指摘している。
ウクライナ、マリウポリにあるアゾフスタリ製鉄所でウクライナ兵152人の遺体が発見されたという恐ろしいニュースについては、「スプートニク」の過去の記事よりお読みいただけます。
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